というわけで、劇場作品強化月間もこれにて一旦閉幕でしょうかね(他になんかあったら教えてください)。こちらは偶然こないだ劇場でCMを見てちょっと気になった作品。映像部分が個性的だったし、調べたらそこまで長くなくてサクッと見られる作品っぽかったので、せっかくの機会ということで観に行きました。
折り返し前の一言感想は、なるほど他の劇場作品とは一線を画すオリジナルスタッフと、本筋からは少しズレた「映像制作スタジオ」の手による画面は色々と面白いものがありました。ドラマとしても時間が短い割には言いたいことがまとまっていて、少なくとも「ぼったくられた」というような不満感は無いです。まぁ、劇場で2000円払って観るべきかどうかは個人の裁量によると思いますが……私は半額くらいで観たのでコスパの良い娯楽になったな、という感想。観て損するようなものではないので、新時代の映像技術が気になる人はちょっと観に行ってみたらいいんじゃないでしょうか。
<というわけで以下はネタバレなど注意>
折り返し前のまとめコメントの歯切れが悪いのは私の腰の座らないところなのでほんとに申し訳ないんですけどね。ぶっちゃけ賛否というか、「とてもよい」と「そこまで良いわけではない」がないまぜの状態なので手放しで勧めるのもちょっと違うんだけどな、くらいのスタンスなんですよね。そして、今作について「良い」が出るのも「そこまで……」が出るのも、なんか個々人の人生観に左右される部分な気がして、とても人を選ぶ設定だと思ってしまったもので。かくいう私は刺さる部分は刺さったんですが、これを「良い体験」とすべきかどうかも悩んでいるところ。というのも、今作のメインテーマが「ものづくりの苦しみ」なんですよね。題材としては「音楽とMV」を扱ってるわけですが、かなりあけすけに「生み出す楽しさ」と「成せない苦しみ」に接続してるもんだから、人生において何かを成そうとしたことがある人、そしてそれこそ「成せなかった人」にはとても刺さってしまうという……かくいう私は当然「成せなかった」側なので、良い話だなぁと思いつつも、心の臓がちょいとチクチク痛むのです。この感覚を呼び起こしてくれるというのは良い作品なのだろうという気持ちもあり、同時に「勘弁してくれ」という悲鳴もあり。この感覚がいい方向に刺さる人、悪い方向に刺さる人、それは等しく存在しそうな気がします。
ハートのデリケートな部分に触れそうな要素は一旦置いとくとして、まず今作は制作スタジオ・スタッフが他のアニメとは全然違うという部分が一番のセールスポイント。題材として「MV」を扱っているのもホームグラウンドがそこだからという話のようで、普段はアーティストMVなどを手掛ける「映像スタジオ」が今回のアニメの基盤を担っている。この独自の映像も良し悪しという気はしていて、間違いなく「CGバリバリ」ではあるので、硬さが気になる人はどうしたって出てくるだろう。現代アニメにおいて「CGだから心がこもってない」なんてアホみたいなことを言う人類は流石に絶滅したとは思うが、風合いの好き嫌いだけで若干の抵抗を覚える人はいるはず。そして、基盤となるツール自体も現代ではむしろ一般的な方向性になればこそ、そこまでオリジナルの要素にもならない可能性もある。正直、序盤は「見たことない映像の方向性ではあるけど、いいとか悪いとかいう評価軸に乗せるもんでもないな」とは思っていた。
この「可もなく不可もなく」と言う評価が動くのは主人公・彼方が勢い込んでMVを作り出すシーンから。まさに今作のクリエイターたちが普段やっている工程なのだろうが、自由自在にツールを駆使して世界構築していく様子が軽快に、アクロバティックに描かれており、この部分は文句なしに見どころ。このシーンに至ってようやくツールの作風と「やりたいこと」が噛み合った感があり、なるほど今作の映像はこの方法でしか完成形に至らなかったであろうことが理解できる。個人的には野心的な作品を観に行き、きちんと野心的な成果物が見られたというだけでも満足である。メタ的に「作り手側」の視点を落とし込んだラストのMVはちょっと感極まって涙腺にくるレベル。
また、そうして内面にも肉薄しつつ描かれた「MVクリエイター」というお仕事ものとしても一定数の面白さはある。考えてみりゃMVだって立派なアニメーション映像なのに、少なくとも私はそれを既存の「アニメ作品」と同じ俎上に乗せて評価しようなんて考えもしなかったし、それらの創作がどのように行われているかにも思いを馳せたことはなかった。今回彼方が2本のMVを作るために経た工程は考えてみれば当たり前のものばかりなのだが、「なるほど、MVクリエイターってのはこれだけ色々なことを考え、想像力を膨らませてあれだけの映像を作っていたのだな」ということに気付かせてくれた。その生真面目な「制作プロット」が見られただけでもなんだか得した気分である。おそらく、今後も様々なMVを見る機会があるだろうが、その時にいちいち「クリエイターは何を思ってこれを作ったのかな」なんて考えることができるようになり、確実に世界を広げてくれた。
こうして自分の土俵に強引に引き込んで紡がれた青春ドラマも、過不足のない妥当な仕上がり。ことにメインヒロインの織重さんのキャラはしっかりと立っており、青春まっしぐらボーイが惚れ込んでしまうのも分かるし、その後の接し方も素敵なおねーさんのまま。そうして憧れられるだけの魅力を維持しながらも、彼女の最も大切なステータスである「一度創作で挫けたもの」のマインドもきちんと伝わってくる設定が見事である。
今作の筋立てって結構理不尽というか、危険なところを綱渡りで進んでいる感があり、織重さん(と外崎)が彼方に対して抱えている感情って、一見して単なるルサンチマンだと受け取られかねないんですよ。別に彼方はまだ「成功者」にはなっていないはずなのだが、それでも彼方にわざわざMVを作らせ、織重さんと外崎がよってたかって「お前に俺たち挫折者の心などわからない」と理不尽な文句をつけている構図なわけで、悪意的に解釈すれば希望に満ちた若者に余計な足枷をつけている状況にも見える。これを胸糞悪いと受け止められるリスクだってゼロではなかった(正直、私も最初にMVを弾かれた時はそんなふうにも思えた)。
しかし、もちろんそんな狭量な負け犬根性が描きたい作品ではないのは一目瞭然であり、困った時にはタイトルを見れば本作のたどり着きたいゴールも明確。織重さんは挫けたし、その挫けるという選択肢を責めたり、馬鹿にしたりは誰にもできない。ただ、「じゃぁそれが正しいんだね」で終わっちゃうのもそれはそれで違うわけで、「あなたは一度負けたと思ったかもしれないけど、あなたを理解して応援してくれる人だってきっといる」というポジティブなメッセージに帰着させることで1本のムービーとしてのカタルシスが得られる(まぁ、外崎の今後の人生がそうした祝福に満たされるかどうかはわからんが)。やはりこの設定であれば、最後は綺麗なおねーさんが少年に颯爽と別れを告げて未来へ歩き出すのが一番綺麗なエンディングに違いないし、そうして未来を変えるだけのエネルギーが、彼方というキャラにも、彼の作ったMVにもきちんとあったと思えるのだ。
今作の脚本はなんと花田十輝。起承転結のきっちりまとまったシナリオラインは熟練の技。ただ、「ガルクラ」が終わる前にこれを観ちまったもんでどうしたって比較しちゃうな、というのはタイミングが良かったのか悪かったのか。全然狙ってる方向性の違う作品ではあるが、この2本は色々と比較できる気もするのでそこは単に楽しめばいいか。各キャラの感情について、決して逃げずサボらず描ききれているのはとても好みのデザインではあります。
ちなみに強いて本作で不満があるとすれば、織重さんの歌唱担当の菅原圭さんというアーティストの歌唱が流石に良すぎるせいで「この歌で世間に認められなかったのは流石にダメだろ!」という余計な理不尽さが加速したことくらいですかね。冒頭、雨の中の歌唱シーンはほんとに身を割くような切実な歌い方がほんと好きだ。
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