○「廻るピングドラム」 6
今期本命作品その2。木曜日は大変だこりゃぁ。実をいうと、私はアニメに入った時期の関係で「ウテナ」を全く知らないのである。おかげでこの作品が幾原邦彦監督作品である、といわれてもそこまでピンとくるわけではないのだが、彼の略歴に「のだめカンタービレ」や「放浪息子」のオープニングコンテが入っているのをみて、ほぅ、と思うくらいは出来るの。ふむ、色々と刺激の強そうな作品になるのだろう。
そしてこの1話である。……うむ、分からんな。中盤までの流れは、画面構成こそ気合いの入ったものではあったが、正直そこまで目を引くようなものではない、という印象。敢えてあげるなら、一番目が行ったのは常に意識される色彩についてのこだわりだろうか。舞台が3人兄弟が暮らす狭い下宿でも、電車の中でも、そして水族館の館内でも、必ずどこかに目を引く色彩を持つプロップを混ぜてくるな、というのが画面で一番印象的な部分だった。下宿の襖など、本来なら地味な色で統一されるはずのパーツがいちいち明度の高い色彩で飾られており、それが単調になるはずの画面をこの上なく刺激的なものにしている。水族館のグッズショップなども、細かい部分に様々な色を配し、「普通の」日常シーンをどこか賑やかなお祭りムードに仕立て上げているのだ。そして、そんな色彩へのこだわりは哀しみに暮れる兄弟がぶつかりあった霊安室で一瞬だけなりをひそめ、妹の復活から舞い戻った日常で、再び機能するのである。あのシーンがこの物語の決定的な転機であることが実に分かりやすい。
そして、「他人には見えないペンギン」という意味の分からない現象が発生し、そのままなだれ込むようにペンギン女王との共同生活、謎の幻想空間、壮絶で艶やかな歌劇、そしてこの作品のキャッチコピーとなるであろう、「生存戦略しましょうか」である。なんとまぁ、なんとまぁ。分からないことだらけだが、とにかくひたすらテンションが上がったのは事実。この無駄に強烈な説得力は、何に起因するものなのだろうか。
とにかく、歌劇パートに入ってからのアニメーションは1カット1カットが魅力的だ。非常に打算的な側面もありつつ、存分に見る側に媚びを売り、徹底的に快楽を与えることのみを目的とした「動くために動く」アニメーション。現時点で断言するのは乱暴だが、あのパートの1つ1つのオブジェクトに大きな意味など与えられていないに違いない。とにかく見た目に賑やかに、ものすごそうに見えたら勝ち。そう感じてしまった時点でこちらの負け。ニュアンスとしては1クール前に「分からない」作品を生み出した中村健治の「C」と似たような方向性といえるかもしれない。ただ、こちらの方が古き良きアニメーションの技法を、そのまま素直に持ち込んでいるだけに、「分からないけどまぁいいや!」のレベルが高い。なんだか、何も言ってないのと同じ感想だし、何も言えないんだけど、奇妙な満足感が得られたので1話はこれで良しとしよう。わたし、水族館に行くとずっとペンギンの前に居たいくらいにペンギン好きなんですよ。フンボルトこそ至高。
一応蛇足で拾っておくと、「生存戦略」「神が作った人間の運命への嫌悪」などのタームが、主人公(兄)の度が過ぎた妹への執着(近親愛)を揶揄する内容であるということは分かっている。今後は兄妹の関係性と、そこに介入した謎のペンギン星人の絡みで物語が進んでいくことになるのかな? うーむ、アニメの意味はよく分からんが、とにかくすごい展開だ。
で、最後は当然中の人のこと。今作はキャストの多くをフレッシュな面子で固めており、キャストロールを見ても、馴染みがあるのは木村良平と屋良有作くらいのものである(あと石田彰もだけど)。そして、そんな中で注目すべきは、当然主役を務めることになった「綺麗なジャイアン」こと木村昴。先日放送された「ぼいすた」を見て、「なんとまぁ、濃い男よ」と思った印象がそのまま継続されているので、細身のイケメンに声を当てているのがやたらおかしかった。技術的な面でいうと、基本が舞台役者であるためか、アニメの音声としてはちょっと癖があって違和感が残る。音の端々に見られる「濁り」が強いせいかもしれないが、この違和感はすぐに消えてくれるもんだろうか。でもまぁ、決してまずい仕事をしているとは思わないので、これが「2枚目の」看板になればいいな、というくらいの段階か。そして妹の日鞠役には、俳協の新人、荒川美穂という娘が抜擢された模様。1話目を聞く限りでは、正直「新人すなぁ」というくらいだが、印象としては初期の坂本真綾を彷彿させる。声質は割と良い感じなので、ここで一発のし上がることに期待です。
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