「へボット!」 ー→7
どんなアニメでも終わったときには達成感とか、安堵感とか、喪失感とか、絶望感とか、色々な感情が沸き起こるものだが、今作ほどの喪失感を与える作品もなかなかないだろう。奇しくも最終話のテーマが「にちようびのせかい」だったが、まさに日曜朝七時がこの世界から消えてしまうに等しい所業である。
おもちゃは売れていなかったという。まぁ、そりゃそうだろう。大人から見たら「なんやねんこれ」の極みの商品だったし、子供さんだってお母さんに必死にしがみついてなんとか1つだけ買ってもらうなら、わけのわからないDXヘボットよりも変身ベルトや巨大ロボットを買ってもらった方がいいと考える。カードゲームのような細かな商品ならまだ売り上げも積み重ねられようが、大味なネジというわけのわからない商品で、どれだけ捌ける算段があったものやら。番組中盤以降、新商品ラインナップが全部ポシャってしまったせいで延々最初のエトボットとペケットのCMだけが流され続けるという状況には、制作チームの悲哀が感じられるようだった。
おもちゃが売れなきゃ駄目なのは日曜テレ朝枠の宿命。本作はおそらく首脳陣からは失敗作の烙印を押されることになるのだろう。でもさ、そんなもん、見ればわかるやん。オメェなぁ、大人だってついていくのがやっとの作品なんだぞ。子供さんがこれを十全に理解して好きになるだけの余地がどこに残されているというのだ。いや、でも、これは……。大人がハマる、否、はめられてしまう地獄の作品である。気づけばそこにヘボット。寝起きの頭では絶対に視聴できないヘボット。起きてたとしても体調次第では受け付けないカロリーのヘボット。商品が売れようが売れまいが何一つブレないヘボット。下手したら昨今のアニメで一番がっつり本格SFやってたかもしれないヘボット。制作スタッフのメンタルが心配になるヘボット。……これだけの前例のない頭のイカれた作品が、1年という長丁場を続けられただけでも、奇跡のような存在である。
こうして1年を共に過ごし、「日曜朝、絶対見るヘボ」を脳髄まで染み込ませ、ネジこまれた我々は、今後ヘボット無しで日曜日を乗り越えることができるのだろうか。一コマすら油断できぬあの情報の嵐を、どこか他のリソースに求めることができるのだろうか。多分無理だろう。ヘボットは、失ってはいけない、何かの防波堤だったはずなのだ。それがまさか、枠ごと消失してしまうとは……おおヘボット、お前がメ〜テレの数十年の歴史の最後を看取るというのか……。いや、大丈夫、別に死因がお前だったわけじゃない。時代が悪いのよねぇ。少子化によってアニメの放送形態も変わらなきゃいけないものね……いや、ちょっと待て、絶対にこのアニメは前例のないイレギュラーなんだから、別に時代の流れと全然関係ないぞ。
本当に、「なんでこんなもん作りやがったんですか?」とか「なんで朝7時にこれが行けると思ったんですか?」とか、色々と責任者に問い詰めたい。問い詰めた上で、涙ながらに感謝の意を伝えたい。成功だろうが失敗だろうが関係ないんや。このアニメを1年間作り続けてくれた、その多大なる無謀に感謝しかないんだ。僕らは大好きだったんだ。この世界が。
終わってしまうものはしょうがない。しかし、何かの萌芽は与えられたのかもしれない。どこかの奇特なお金持ちが、この作品を深夜アニメにブラッシュアップする資金を出してくれるかもしれない。本気で全てを乗り越えたヘボットがどんな作品になるのかも気になるところである。もう、このままもう一回深夜に再放送しよう。それでも、多分僕はもう一周くらいなら全てを新鮮な驚きと衝撃で繰り返せるはずだ。何回も何回も繰り返して、ネジルがたどり着いた最後の世界には、きっと僕らはまだ到達していない。
今作を作り上げてくれた全ての関係者に改めて謝意を。すごかったよ。とんでもなかったよ。そして何より、本当に大馬鹿だったよ。僕はヘボットが大好きでした。あ、でもナグリ王女はもっと好きでコブシ(オチ)。
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