劇場作品ラッシュ。今週も重たいぞ、と思ってたんだけど、観るかどうか迷ってた「プリズマイリヤ」が思いの外評判が悪いみたいなので、どうせそっちはOVA扱いだしスルーでいいかな、と思ってる。とりあえず今週の残りの目標はガルパンだけど、例によって1日に2本の映画は観られないので、とりあえずこちらを観て帰宅。いつも思うんだけど、1日に何本も映画観られる人って、精神のキャパがすごくない?
<以下、本作に関してはそこそこネタバレ注意>
久しぶりに「展開で手に汗握る」映画になっていたので今作は一応ネタバレは気をつけなきゃいけないかもしれませんね。まぁ、原作読んでるファンの方が多いだろうから、私のように劇場で初めて展開を知る人間の方が稀なのかもしれないけど。とにかく、ベタベタなお涙頂戴ものなのは間違い無いのに、そこかしこに変化球が混ざっていて色々と興味を惹かれる作品だった。
先に片付けておくべき要素として、映像部分に関してはぶっちゃけ「地上波放送なみ」。劇場のスクリーンに映るからって特別ディティールが描き込まれているという風でもないし、度肝を抜くようなアクションや繊細な映像美が売りの作品でもないので、まぁ、「テレビシリーズでやってもよかったんちゃうかな」というくらいのものである(もちろん作画は安定している)。ただ、今作の場合はどちらかというとそうした映像部分の要請ではなく、シナリオ構成の求めるところにより、一本の劇場作品にまとめられたという動機付けの方が大きいだろう。テレビシリーズでも3〜4話くらい使えば同じような作品作りは可能だっただろうが、やはりこのお話は一気に作って、一気に見た方がいい。無理やり話数調整するよりも、劇場作品として1枚看板を作ってしまったスタッフの判断は正しいものだろう。放送からブランクが空いてしまったが、むしろそうしたブランクのおかげで一度現状が「寝かされた」こともあり、新たな事件に腰を据えて挑むことができるようになっていたのでむしろプラス要素と言えたかもしれない。地上波放送が終わった直後だと、多分かえでじゃなくて花楓になってることについての抵抗も残ってたと思うし。作中での時間も加味して、この数ヶ月で咲太の周りの状況も落ち着いているよ、という冷却期間があったのも計算づくかもしれない。
さて、そんなわけでメインシナリオだが、「余命幾ばくと宣告された可哀想な女の子」が登場している時点で実にシンプルに「泣かせにきている」。いくら何でも阿漕だし、ちょっと安易じゃない? という皮肉も言いたくなるが、考えてみりゃ本作はメインの部分に特にひねくれたデザインはないんだよな。咲太と麻衣先輩の恋愛も直球だし、あんまり腹芸を使うようなキャラも多くない。わかりやすいギミックとしての思春期症候群があり、そこに咲太が正面から切り込むのが魅力の1つと言える。そしてそこに牧之原翔子という「初恋の人」が現れ、今回は咲太さんの大葛藤がメインテーマとなるのである。
本作の凄まじいところは、どこを切り取っても悪意を持った人間が1人もいないということ。とにかく全員が恐ろしいまでに利他的で、自分を投げ打ってでも他人の幸福を願う、超絶「善人」ばかりなのである。そして、そんな善人たちの集団の中に「命の選択」を投げ込んだらどうなるか。実に残酷でわかりやすい設計。今回咲太に与えられた試練は、突き詰めれば「翔子が死ぬか、自分が死ぬか」の2択である。いかにもドラマらしい設計だし、「たまたま事故って死ぬけどその心臓が移植できるんですわ」なんてご都合主義にもほどがあるだろ、という展開なのだが、このあたりの展開がわかりやすいのは、その後の翔子の思春期症候群の設定が多少ややこしいので、他の部分を簡略化させるためのものだろう。
とにかく「利己か、利他か」という問題が最初に投げ込まれ、普通の主人公なら「どうすればイインダ-!」と悩むべきところなのだが、咲太の恐ろしいところは、最初にその2択で悩んでいるそぶりが欠片も無いところ。いや、もちろん心中では悩みもするのだろうが、基本的に彼の人生設計において、答えは1つしかない。自分の命で大切な誰かが助かるなら、いちいち天秤に乗せることすらしないのが梓川咲太という男なのだ。そしてさらに恐ろしいことに、恋人の麻衣先輩が、そんな咲太のことを何も聞かずに理解していること。「咲太なら翔子のために命を投げ出すに決まっている」ということを、嫌という程理解していること。この残酷なまでの信頼感が、二人の関係性をよりやるせないものに昇華している。熱海駅での先輩の慟哭と訴えは、一切建前を含まない桜島麻衣の本心である。一人の女性にあそこまで言わせたのだから咲太も男冥利に尽きるというものだが、咲太にとっての麻衣先輩も掛け替えのないものであり、それまで1択だと思っていた「命の選択」に初めて迷いが生じる原因にもなった。翔子を救えば麻衣が悲しむ。麻衣を大切にすれば翔子は死ぬ。本当に残酷な板挟みの中で、咲太はついに泣き崩れてしまう。
最終的に「麻衣を選ぶ」と言ったものの、事件直前に翔子の実情を知り、結局翔子を救う選択に走ってしまう咲太。そして、それすらも読みきっていた翔子。さらに、そんな咲太を救うために命を投げ出してしまった麻衣。3人が3人とも、全く自分のことを優先しない「利他」の塊のような三角関係。互いを想い合うからこその選択のズレ、そして悲劇。流石にあのシーンに至っては、観ている間に嗚咽が漏れた。誰一人悪くない、咲太も何も悪くないのに、最悪の結果になってしまったという失望感は本当にヒヤヒヤさせられる。まぁ、「ドラマとしてはここからリカバリーするに決まってるんだけど」と内心わかりながら観ているわけだが……正直、「いや、どうしようもなくない?」と不安にはなった。
そして現れる第3の翔子。まぁ、そのあたりもご都合主義だし、翔子の能力の使い方もすでにチートレベルなのだが、そんな突発的な「症候群の使い方」を下支えするために、咲太がこれまでいくつもの症候群を渡り歩いてきたのだということが分かるのが面白い。普通の男子高校生だったら、あれだけ絶望的な状況では本当に何もできなくておしまいだったと思うのだが、まず「時間を過去に戻すよ」と言われて割とすんなりその状況を受け入れられたのは過去に古賀の症候群で何度もエンドレスエイトを経験していたおかげ。戻った「過去」で存在を量子論的に確定させるために協力者を探すやり方は、かつて麻衣先輩がやっていたバニーガールをそのままお借りしたものだ。流石にバニーボーイではまずいので文字通りのバニーだったのはちょいとファニーだが。そして、そんな「過去」で最初に繋がることができたのが古賀だったというのも何だか面白い部分だ。「未来から戻った自分」と「現在の自分」というダブルスタンダードを成立させるため、自分同士の意思疎通を行ったり、意見の合わない「自分同士」をコントロールできるようになっていたのは、かつて理央の症候群でドッペルンゲンガーを経験済みだったため。もっとも近くて最も遠い「己自身」との対話が難しいことは、かえでの症候群でもなんども予習済みだったので、咲太は「過去の自分ならば」という想定を巡らせて、いわば自分を「はめる」ことで解決をみた。こうして並べると、やはり過去の症候群の展覧会みたいな趣がある。原作でもそれは意図して作られたデザインなんだろうな。短い時間で咲太がベストアンサーにたどり着けたのは、本当にたくさんの関係性があってこそだ。
そうして時間を飛び越え、自我をも乗り越えてたどり着くゴールライン。時間跳躍ものなんて今時珍しくもないのですんなり受け入れられる部分だが、実はクライマックスとなる事故当日のシーンも結構アクロバティックなことをやっていて、読者(視聴者)の中で認識すべき「咲太」が、実はぐるっと入れ替わっている。ウサギが車の前に飛び出すまでの「未来咲太」視点が、事故の直後には「過去咲太」の主観に入れ替わる。本来なら「どういうことや?」と首をかしげるような進行になるはずなのだが、咲太の察しの良さに加えてそれまで翔子などで何度もイメージを固めていたおかげで、「咲太から咲太への視点移動」がごく自然に行われているのである。厳密には「過去咲太」には「未来咲太」の記憶はなく、直接話した一本の電話の内容から推測するしかなかったはずなのだが、まぁ、その辺りは咲太である。「未来の自分はおそらくこうして自分のことを手玉に取ったんだな」というところまで瞬時に悟って、その意味を知って飲み込むしかなくなる。そして、その瞬間に翔子との別れを悟って涙するのである。やっぱり、咲太すごいな。
もちろんここで終わっても物語としては成立したはずである。翔子の行動はあくまで「自分が生き永らえたい」というエゴであり、たとえ咲太がどれだけ肩入れしようと、それは身の丈に合わぬ願いだったのだと切り捨てることもできただろう。でもまぁ、それだとやっぱり後味がよくないので、「現在」と「過去」という認識をひっくり返すことによって、翔子の症候群が「正しい使い方」へと至る。ラストシーンなんてそりゃもう都合の良すぎる展開だし、あまりにもベタなのだが、全ての視聴者はそうなることを望んでいる。だからこそ、心の底からのハッピーエンドである。やっぱり、善い奴らには、幸せになって欲しいものね。
まぁ、色々とギミックは多いものの、終わってみれば「良い人たちがみんな幸せになれる」という、素直に「良い」お話でありました。全体をまとめようとすると「咲太さんほんとご苦労様でした」という言葉が真っ先に出てくるが、今回はそんな咲太を時には支え、時に支えられた麻衣先輩の奮戦がひときわ目を引く。彼女の万全の信頼感がなければ、咲太もここまで無茶な行動には出られなかったはずだし、そもそも彼の人生観は先輩と出会えたからこそ前向きなものになり、その力が翔子にまで伝わったのだと考えることもできる(同様の恩恵はおそらく花楓の時にもあったのだろう)。まっすぐ美人な桜島先輩は、やっぱり可愛いのです。劇場スクリーンで見る美人さんの顔はそれだけで眼福なのだが、今回はおっとり風美人の翔子さんとの対比で、先輩のキリッとした表情の良さが確認できましたね。
そして何と言っても、個人的には最推しなので注目してしまうのは、巨乳眼鏡毒舌美少女・双葉理央さんである。いやぁ、今作でも実にそつのない、素晴らしいポジショニングでしたね。咲太には麻衣先輩がいるって分かってるからこそ一歩引いての「親友」としての立ち位置。それでもあまりにも咲太が咲太すぎるのでポロリと漏れてしまう感情の切れ端。踏切前での2人の会話を観てると「あぁ! 理央さん!」と叫ばずにはいられない。誰もいない理科室で延々咲太を救出するための理論を構築しようとしている理央さん。なんて健気なんだ。どれだけド修羅場に巻き込まれても決してキレない理央さんまじ天使(なお、電話は切る)。考えてみて欲しい、結局、今作の作中で咲太のことを「ブタ野郎」と呼んでいるのは理央だけなのである。そう考えると、やっぱりメインヒロインは理央だったということもできるな? まぁ、思想の自由ってやつだな。いや、でもこんだけ属性がてんこ盛りの理央が傍にいるにも関わらず負けてない麻衣先輩の方がやっぱり化け物なんだけどなー。ここまで正統派のヒロインで自力が強いキャラ、最近じゃなかなか見かけないぞ。ほんと、出てくるキャラ全員に満遍なく幸せになって欲しいよ(花楓が元気そうなのは本当に救われる)。
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