暗部吹き出しスギィ! 第9話! いきなりこの街の、いや、この世界のどうしようもない部分が一気に明るみに出てしまったぞ。これまで「大丈夫なんかなぁ」と漠然と心配していた要素が、「やっぱりダメなものはダメなんだけどね」ってんで判明した形。闇市なんてもんは、まだまだこの世界の痛みの中では軽い方だったわけだね。
結局、「肉を食べたい」という肉食の本能ってのはどこをどう頑張っても抗えるものではなかった。涼しい顔して共存している肉食と草食という2つの存在は、どこまで行っても「食う側」と「食われる側」。この世界の本質を見るようになることが、この世界では「大人になる」ということなのか。あまりに理不尽に、草食の命は突然失われてしまう恐れがある。これまで各所で草食側がその恐怖を語っていたが、この世界ではそれは当たり前のことなのだ。
ことにこの世界の理に抗おうとする者にとって、理不尽は各方面から叩きつけられる。つまり、草食の範疇を超えて上に昇り詰めようとするルイ、そして肉食でありながらその本能を受け入れず、草食の側でありたいと思い続けるレゴシ。ルイについては、そのあまりに壮絶な幼少期の事実が明かされた。そもそも「身寄りのない子供を食材として売買する組織」がそこそこ身近なレベルで存在している時点でヤバいが、この街の裏でそうした商売が平然と成立しているという社会構造そのものがヤバい。ルイはそうした裏側との接点を一番ダイレクトな形で持っている「被害者」であり、構造をひっくり返そうと執念を燃やす「復讐者」でもあった。だからこそ今の立場に上り詰めることができたわけだが、当然、そうした異分子は潰そうという力が働く。襲いかかってきた肉食の学生もそうだし、彼のアイデンティティを揺るがしてしまう市長の言動もそうである。市長の方は、彼の語った異様なまでの努力にも現れるように、単純な本能だけで動いている人物ではない。しかし、結局彼が守ろうとしているものは、肉食が現在と同様に「表面上は融和的に」生活できる社会である。ルイの目指す世界とはあまりにも違いすぎる「現状」の維持である。おそらくルイもそうした齟齬については認識していたのだろうが、この度ハルというもっとも身近な草食の仲間が巻き込まれたことで、現実と理想の軋轢と正面から向き合わなければならなくなった。「大人」としてねじ伏せられた彼から見て、「憎むべき」草食であるレゴシの唱える正論はどれだけ突き刺さったことだろうか。
レゴシに突きつけられた現実は、そんなルイを通じて見せつけられたこの社会の理不尽である。レゴシだってわかっている。ルイが聡明な人物であり、彼がこうも動けなくなってしまっているというのは尋常ならざる事態なのだと。それでもなお、彼の思考はシンプルだ。これまでルイは散々レゴシに対して「力があるくせに」と揶揄を飛ばしていた。今まさに、その「力」を振るうべき時がきたということなのだろうか。皮肉なことに、肉食と草食の目指すところが同じはずなのに、動くべき方向が互いに真逆を向いている状態である。
レゴシの「シンプルな思考」も、よくよく考えれば実に歪んだものである。意を決した彼がハルに告げたのは「ルイのためにも自分は身を引く」という決断。一見するとなんとも珍妙な「無害でありたい」という一言は、この世界においてはあまりに高潔な目標である。悩みに悩んで、ポロリとこの言葉が出てきたレゴシの精神性というのは、どこかずれているようで、やはりこの街の真実に肉薄している。彼がハルに対して見せられる最大限の誠意というのは、まさに「無害」という言葉に集約されるのだ。これでもし、ハルの方がそんな一言に胸打たれてくれるような女性だったら話も違ったのだが……彼女も百戦錬磨。「本能があるからこそ、この世界でそれは不可能なのだ」と諦観ぎみ。そして、現時点ではおそらく彼女の世界の見方の方が正しいのである。逆に言えば、もし、ここから世界を「変える」ことができるとするならば、二人の関係性もひっくり返る可能性はあるということだ。
さて、大量のライオンと一匹オオカミ、どちらの真実がまかり通ったものか……。
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