○「はたらく細胞BLACK」 6
これはもう、作品単体でどうこういうよりも、プロモーションの勝利でしょう。この並べ方、絶対わざとだろ。
過去に前例があったかと思い出そうとしたけど何も思いつかなかったですね。こうしてスピンオフなどの関連作品が連続する枠で、しかも両方とも新作で放送された事例ってあっただろうか? ショート枠とかならもしかしたらあったのかもしれないが、多分こんな思い切った放送形態は初めてなんじゃなかろうか。それも当然のことで、売る側としては出来るだけ長期的に作品を印象付けたいわけで、仮に可能だったとしても、同じIPの作品なら時期をバラして長期的に運用していくことを狙うはず。倍以上の労力をかけて2本同時に作り上げ、それを一気に流すなんてのは普通は「勿体無い」のである。そもそも「同時に2本やる」時点でかなりヘヴィーだしね。
しかし、この作品はあえてそれをやった。無印の「はたらく細胞」の2期をまず放送し、続く枠で一気にこちらの「BLACK」へ至る。おそらく、この放送形態にするにあたり、製作側では「どっちの順番にしようか?」みたいな会議は一度は行われたはずだ。そしてもちろん、こちらの答えしかないことが瞭然であった。逆にした場合には、後からあんなほんわか世界観を見せられても全部茶番にしか見えないからだ。せっかくあれだけ血小板ちゃんがひしめき合っていたというのに、それを全て消し去る残酷なブラックの波。まるでサウナの温冷浴のごとく、刺激に身体が過剰反応を示してしまう。
これもまぁ、原作時点でのアイディアの勝利みたいな部分はあるだろう。「はたらく細胞」が話題になり、そこから「もっと深刻な身体の場合どうなるの?」というのを別タイトルとしてスピンオフさせ、その模様を「はたらく」細胞のブラック企業版というモチーフに落とし込む。私のようにブラック企業と縁がない(そもそも企業と縁がないが)人間に「ブラック企業あるある」はもしかしたら刺さらないかもしれないが、そこで描かれる「身体の地獄絵図」は、誰しも不安を抱えたことがある、まさに「自分に聞いてみろ」な案件だ。正直、アニメ視聴中も心臓がズキズキしてしょうがなかった(気のせいです)。こんなもん見せられて、いったい誰が得をするというのか。
そうして、誰もがいつかはぶち当たる健康の問題に容赦無く切り込み、残酷な世界を作り上げていくというコンセプトはその時点でアイディア賞だったわけだが、この二作品を並べることによって、絶望感は何倍にも膨れ上がる。おかしい、俺の体の中には可愛い血小板ちゃんはいないというのか。花澤ボイスの赤血球がドタバタ騒ぎながらも毎日賑やかに酸素を運んでいたんじゃないのか。全ては幻想、どう考えても俺の体の中は、黒い方だ。いや、幸いにして酒も煙草も一切やらない人間ではあるのだが……いや、もう何もいうまい。
というわけで、もう、この枠の並べ方に脱帽でした。もちろん、「ナレーションが能登麻美子から津田健次郎になるだけでこんなに簡単に地獄って演出できるんだな」とか、きちんと対比できる部分が際立ってるのはこだわりだろう。これ、本編とは製作スタッフもスタジオも全然違うんだけど、二つのチームで連携とって作ってるのかなぁ。色々考えるもんやなぁ。
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