一大イベント、第22話。人生を左右するという意味で、これまでのどのエピソードよりも重要なイベント、受験。それなのに、このサラリとした描かれ方はどうしたことか。これがけいおんの世界だなぁ。
一気に時はすすみ、いよいよ4人の受験本番。とはいってもユルさはいつも通りで、律唯コンビは神頼み以上の勉強は出来ないし、澪は必要以上に心配し、ムギはゆるゆる。心配しているのは後輩たちばかりだ。また、受験シーズンは2月ということで、バレンタインシーズンとも重なっている。女子校通いの面々は男の気配が一切感じられない女子to女子のお話ばかり。そんな中でちょっと勇気を出してみた梓は、2年目で初の先輩へのチョコ作り。憂の力も借りて無事にチョコレートは出来上がったものの、それを素直に渡すことが出来ない。友達2人に肩を押されて渡しかけたが、その瞬間、どうしようもない寂しさに襲われてしまう。受験、冬、そして卒業。それは全てワンセットだからだ。自分の中にわき上がる感情を処理出来ないで困り果てる梓だったが、状況を打開してくれたのは、優しい同輩たちと、いつも通りで何一つ変わらない先輩達との触れ合いだった。
最後の一押しで吹っ切れた梓は、ようやく正面から先輩達の卒業を祝い、合格を祈願することが出来るようになった。そして、そんな梓の決心が実を結んだのか、無事に憂と梓の携帯には、桜の花が4つ咲いたのである。
ある意味最大の山場と言っていいエピソードのはずなのに、メインの構成が梓視点になっているため、「受験に挑むこと」はほとんど描かれていないに等しい。結局唯たちは、何となく受験に挑み、何となく合格しただけだ。似たような日常4コマ繋がりで、受験をラストのメインイベントに持ってきた「あずまんが大王」と対比させるとそのことがよく分かる。最後の憂が机に突っ伏すシーンなんかは「合格の喜び」が面白い形で伝わってくる良演出であったが、受験シーンの描写が一瞬たりとも無かったというのは、かなり明確な構成の指針だろう。「進路を悩むこと」についてはかなり丁寧に扱っていただけに、この受験イベントの扱いは「普通に考えれば」おかしなことである。
しかし、結局この作品の主人公である軽音部メンバーたちは、そんなところで輝くことはないのである。あくまで今回は受験というイベントを通じて、梓に「春」を思わせることが最大の目的。そういう意味では、実に理に適った構成になっている。
梓の心境については、学園祭以前から少しずつ描写が積み重ねられており、いつかどこかで解決すべきファクターという意識が確固として存在していた。最近はそれが如実に表れるようになっており、卒業というタームについて、ひょっとしたら当の唯たちよりもナーバスな状態で聞いていたかもしれない。それは20話で描かれた4人組の「終わり」とはまた違った、別な意味での「わかれ」。20話のラストシーンで唯一泣かなかった梓が、いつかは精算しなければならない問題だった。それを、今回はバレンタインのチョコという形で具現化させたわけだ。最終的には非常に明示的な「答え」を提示するシナリオになったわけだが、そこまでもっていくまでの梓の細やかな感情の揺れが、何とも切なく差し迫ったものに見える。
もちろん、「先輩が卒業して部員が一人きり」という梓の現状はかなり辛い。そして、唯たちの卒業というのは避けられないイベントなので、この状態はどう転んでも改善されるものではない。しかし、今回のシナリオではそんな梓に「仲間」という救いの手が差し伸べられている。具体的に助力してくれている憂もそうだが、軽音部員たちと似たような賑やかさかを持つ純の存在も、梓にはとても大きなものだ。確かに部室には一人きりになってしまうのかもしれないが、別に梓はひとりぼっちになるわけではない。20話でも涙を流さなかった梓だが、そんな彼女の初めての涙が、合格発表を受けた後に純に向けられていたのが象徴的ではないか。クラスでも愛される存在であるようだし、吹っ切れた彼女は、きちんと1人で軽音部を切り盛りしてくれるだろう。
今回もホロッとさせられる実に丁寧なお話。京アニ作品ってのは本当に冬の寂しさ、寒さの画面作りが巧くて、雪が舞う中での受験生達の戦いと、梓の心許なさが肌寒さとともに嫌というほど伝わってくる。それとの対比があるからこそ、部室の持つ暖かみが一際響いてくるのだろう。陰でこっそりいい仕事をしてくれるさわちゃんとか、今回は無闇に「いい話」でした。
今週の小ネタ。1,駅で頭を抱えて「こぼさない」ようにする唯。「妄想代理人」9話「ETC」を思い出します。ま、あそこまで切実じゃないだろうけど。2,唯が梓に飴を渡す時に「はい、あめちゃん」って言った。西の方の出身なんだろうか。徳島とか。
今回のベストショットは、個人的には「あったかあったか」の時の俯瞰視点の映像だと思います。凄く和むし、それだけに凄く切なくなりました。
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