全ては収束、第10話。本当にネット分析班の的確さは頭が下がる。今回一気に回収された伏線は、おそらくリアルタイムで言うなら2〜3話くらいの時には推察されてたし、それを下敷きにして話題が進んでたもんだから、割と細かい部分まで「予定通り」になってるんだよね。あんまりそういうページとかは見てないつもりなんだけど……こんだけ話題作だと嫌でも目に入ってくるもんだから、「うお、すげぇ」って素直に感心してる。ま、1話のアレは割と明示的だったから、今思えば案外読みやすい展開だったのかもしれないけどさ。
これまでブラックボックスだった「暁美ほむらの心情」が全て吐露され、曇りガラス越しで見ていたようなシナリオが全てオープンになった、ターニングポイントとなった今回。だが、むしろ今回のエピソードをどうこう言うよりも、これまでの話数を見直してほむらの行動を追う方が面白いのかもしれない。ま、ちょっと大変なので、今回はあくまで1話分の感想ということにしますけど。
「ループ説」は既に各所で語られていたのでそのギミックを拾う意味は薄いと思うが、「何週目であったか」、そして「どの周回でほむらが何を得て、何を失ったのか」というのは、人格形成を考える上で重要なポイントだろう。一応まとめておこう。
心臓を患い、病弱な少女としてまどかのクラスに転校してきた「1周目」のほむら。自分が「生きること」について悲観的だった彼女は、そこで初めて魔法少女のことを知り、この世界に足を踏み入れる。この時のチームは、マミが師匠でまどかがルーキー。憧れを持って見ていたほむらはこの時点ではまだ単なる傍観者だ。しかし、彼女が見ている前でマミはワルプルギスの夜との対決で殺されてしまい、無謀な戦いに単身挑んだまどかも力及ばずに息絶えた。そして、悲観と執念から、ほむらも魔法少女の世界へ踏み出し、時間逆行の力を手に入れる。
「2周目」では、魔法を手に入れて願いがかなったことを素直に喜ぶほむら。出会い頭にまどかに自己紹介し、マミと合わせて3人で戦い抜くことを決意する。しかし、残念ながら彼女の魔法は、こと戦闘においては最弱レベル。なかなか戦闘では2人のサポートもしにくい。独自の研究で爆弾という自分の特性にフィットする武器を発見した彼女は、その力で最大の魔女を打破しようと意気込むが、その過程で、まどかがついにソウルジェムを穢され、魔女として発現することに。ここにおいて初めて、ほむらはキュゥべえの真の狙いを知ることになり、「共に戦う」選択をしてしまったことを後悔し始める。
「3周目」にも状況は好転しない。「キュゥべえが諸悪の根源である」という真実は、仲間には全く伝わらない。この段階では杏子とさやかも魔法少女となっており、ほむらがどうにか働きかけてワルプルギスを打倒しようとしたことが伺える(当座の問題として、とにかくワルプルギスの夜を乗り越えない限りまどかに未来はないのだから、とにかく魔法少女たちは人員を増やして手を組むべきである)。自らの武器も強化するなどの努力を続け、ほむらは力による状況打開を模索し続ける。しかし、結果は最悪の方向へと向かってしまい、「最終周」同様にさやかが魔女化。最悪の事実を知ってしまった他の魔法少女達は暴走し、杏子がマミに、マミがまどかによって、魔女化を未然に防ぐために殺されてしまう。2人きりで挑もうと誓ったワルプルギス戦も、何とか打破にこそ成功したものの、2人にかかる精神的負担は大きく、2つのソウルジェムは同時に魔女化の危機に。そして、ここでまどかが自らの命を賭してほむらを救い出したことで、彼女の使命は望みをつなぎ止めた。まどかの意志を完遂するため、最愛の人を自らの手で葬り、ほむらは「4周目」へと飛ぶ。
「4周目」のほむらの目的は明白。誰一人未来を受け止められないのだとしたら、「もう誰にも頼らない」。魔女を作らないこととは、すなわち魔法少女を作らないこと。目覚めてすぐにまどかに忠告をすると、全ての魔女を自分一人の手で撃破することを心に誓う。しかし、単身で戦い抜くには、ワルプルギスは強大すぎた。自らの危機を契機として、キュゥべえはものの見事にまどかをその手中に収めてしまう(第1話冒頭)。それでも、ほむらは諦めない。「私の戦場はここじゃない」。いつもと何一つ変わらない口調で「勝ち名乗り」を上げるキュゥべえを無視し、ほむらは孤独な戦いへと身を投じる決意をする。
まどかを救えなかったほむらは、満身創痍の状態でついに「5周目」へ。しかし、徹底的に関係性を絶とうと先回りするも、やはりキュゥべえはまどかの下へ。マミは早々に討ち死にし、さやかの魔女化も発生してしまっている。残された最後の1つ、「まどかの契約」だけが残されている状態である。
4回もの時間跳躍を繰り返したほむらの物語がヴェールを脱ぎ、この物語の真の主人公である暁美ほむらが姿を現した。それはあたかも、前原圭一からスポットがずれ、ようやく古手梨花が心中を語り始めたかのようである。
何度となく繰り返す謀略と抵抗の物語だが、その本質は「ループ」ではない。その中で、少しずつ前進している部分にこそ意味がある。それはつまり、ほむら自身だ。一歩一歩魔法少女としての能力を高めていくほむら。ループをしても過ごした時間の経験値は蓄えられていくようで、最初はろくに打撃すら出来なかったほむらが、技術を手にし、武器を手にし、武力として単純に成長している。
そして、ループを重ねるごとに積み重なっていくのは、「繰り返し」であるはずのまどかとの関係性である。「1周目」では「初めての友達」として最高の出会いを果たしたまどか。最後の最後まで「一般人」のほむらを気遣い、守り抜こうとしてくれた。「2周目」では一緒に戦い抜いた戦友のまどか。しかし、そんなまどかが魔女へと変貌する最悪の瞬間を目にすることで、ほむらは自分を責めさいなむ。「3周目」では、一度は2人で一緒に魔女になるのも悪くはない、とすら思ったほむらに対し、最後のグリーフシードを使い、まどかは自らの命をなげうってほむらを救い出す。「護りたいものがたくさんあるから、世界を滅ぼしたりして欲しくない」。親友のその願いを胸に、ほむらは辛い辛い戦いを続ける。そして「4周目」では、既に「魔法少女として」自らの命を救ってくれたまどかが、今回は「親友として」彼女を救う選択をし、それが最悪の結果に繋がってしまう。どの時間軸においても、まどかとほむらの接した時間は短いはずなのに、その全てにおいて、まどかはほむらの親友であり続けた。この関係性の重複こそが、ほむらを無謀ともいえる戦いに駆り立てる原動力になっているわけだ。
「どうやって戦っているのか」が分かり、「何故戦っているのか」も分かった暁美ほむら。残された時間で、彼女が次なるワルプルギスとどう向き合うことになるのか、「5周目」の彼女に望みを託す物語は、「ワルプルギスの夜」と「キュゥべえ」という2つの脅威を前に、クライマックスを迎える。
すべてが「説明」であるはずの今回だが、描くべきことがシンプルで伝わって来やすい内容だったおかげか、これまでのようなひねた盛り上がりに加えて、1つのドラマとして印象的なシーンが数多く存在している。マミの久し振りの復活(そして何度もの死)などはシリーズファンにしてみれば悲鳴のあがる代物であるが、ほむらが1人で努力し、少しずつ武器を改良し、戦い方を身につけていく修行パートなんかも、少なからず燃え上がれる部分だろう。なるほど、あの爆弾や銃火器は魔法ではなくて、あくまで現実にあるものを魔法で出し入れしていただけなんだな。女の子の細腕じゃ扱えそうもないものも多かった気がするけど……それくらいのフィジカルは魔法で何とかなるのかな?
バトルシーンにしても、今までのように「これからどうなるのかという不安」ではなく、「これまで何をしてきたかの回顧」を描くパートなので、画面が鮮明で素直に燃えられるダイナミックなものが多い。冒頭、ほむらが最初にひっかかったゲルニカ風魔女と、颯爽とそれを打ち抜くマミの銃、まどかの弓矢。2周目では謎のセーラー服お化けとの対決をマミさんが見事なサポートで支え、ほむらに「初白星」を提供する友情パワーも伺える。あのシーンを見ると、1話2話あたりでほむらがマミに対してきつくあたっていたことを懐かしく思えるだろう(実際は「まどかを契約に向かわせる全てのファクターを排除したがっていた」だけなので、本来、ほむらはマミに感謝と尊敬を抱いていたのだから)。
そして、やはり最も印象的なのが、3周目でまどかとほむらが互いのソウルジェムを手に横たわるシーン。自分を犠牲にしてほむらを助けるまどかと、そんなまどかの願いを背負って修羅となるほむら。二人の友情が最も端的に表現されたこのシーンは、不覚にも目が潤んでしまった。まどかは今まで空気のような存在だった気がするのだが、今回たった1回「魔法少女として」登場しただけで、この存在感と信頼感はなんなのだろう。おそらく、ほむらがこれまで試みてきた数々の努力が「全てはまどかのため」であることが描写されていたおかげで、それが遠因となって「偉大なる魔法少女まどか」の存在を我々に浸透させていたのだろう。心憎い脚本である。
そして、そんな健気な少女たちの対抗勢力、キュゥべえの悪辣さも、今回極まった。4周目で行われた「ほむらを餌にした契約交渉」は背筋が寒くなる迫力があるし、その後に行われた「勝利宣言」の熱の籠もらない様子も本当に恐ろしい。文句無しで、ここ最近のアニメでは最も残酷で凶悪な悪役だろう。
こうして善と悪が二極化し、クライマックスへと突き進む本作だが、1つだけ気がかりな部分がある。「ループする時間軸」といえば、上にあげたように「ひぐらしのなく頃に」があるし、最近では「エンドレスエイト」が話題になったわけだが、全てに共通するポイントとしては「どうすればループが終わるのか」という部分。ほむらのループの場合は簡単で、とにかくまどかが無事な状態でワルプルギスの夜を乗り越えればいいということになるが、現時点では既に自分の意志で4回も時間跳躍を行っており、いうなれば「無制限のリセット」が可能な状態にある。つまり、「今回駄目でも次があるじゃないか」と視聴者に思われてしまうと、ちょっとインパクトが弱いのだ。「ひぐらし」では確か梨花の神通力が弱まって「これ以上のループが出来ない」という危険な状態になったし、「エンドレスエイト」はそもそもループからの脱却が目的で、「終了トリガー」を見付けるのがテーマだった。今回のループについては、何が「終了トリガー」として設定されているのか。
考えられるのは、前々回キュゥべえが仄めかしていた「ほむらの能力看破」がある。4周目までのキュゥべえは、ほむらがどのようにして魔法少女になったのかについて言及しておらず、「自分の契約を経験していない魔女」としてイレギュラーであるはずのほむらに、さほど警戒はしていない。その結果、目の前で彼女に時間跳躍を許しているのだ。しかし、5周目の世界において、ほむらはあまりに深くキュゥべえの活動に干渉しすぎてしまい、彼に自分の能力を見破られることとなってしまった。もしここで、キュゥべえがほむらに対して何らかの対策を講じてきたとしたら。まるでパイツァダストを解除した吉良吉影のように、一時的にでもほむらの能力を「解除」してしまったら、ほむらは「6周目」へ向かうことが出来ず、今回のワルプルギスの夜が最後のチャンスということになる。おそらく、キュゥべえも何か狙っているのは間違い無いだろうし、ほむらとキュゥべえのまどか争奪合戦は、今回が山場となるのだろう。刮目刮目。
今回は辛抱できずに蛇足で書かせてもらうが、ようやく本領を発揮出来た悠木碧、斎藤千和の師弟コンビの持つ迫力が素晴らしい。特にまどかはこれまでずっと怯えて振り回されるだけの役だったというのに、一転して「最強の魔法少女」となったおかげで、全てを守り抜くかのような大きさと暖かさを有し、ほむらの行動原理に大きな説得力をもたらしている。そして、そんなまどかの影響で少しずつ変わっていくほむらの内面性も、わずか20分の間で実に明示的に表示されている。だからこそ、ここには千和が抜擢されたということだ。4週分の経験を蓄え、我々のよく知っている「暁美ほむら」が完成したところで、「オープニングテーマ」が流れるという今回の構成も絶妙。あくまで、ほむらの誕生からこっちが、「魔法少女まどか☆マギカ」なのだから。
行くも地獄、戻るも地獄のこの作品。同じ地獄なら……見なきゃ損?
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