○「BEASTARS」 7
こらまたすげぇもんが出てきたぞ。視聴中、ずっと口開けっ放しだった。1話目で過度に判断しちゃうのは危険なんだけど、オレンジ製作陣への期待も込めて勝負の加点。
原作はやや既読。これが始まった頃にはチャンピオン読んでたし、だらだらとではあるがそれなりの期間は読んでいたように思う。まぁ、あんまりはっきり覚えてはいないのだが……流石にこの筋立てだとなんとなく読んで全部忘れるってこともあるまいよ。ただ、どうしてもこの作品みたいに「ごちゃついた画風」の作品が苦手なもんで、ちょいちょい飛ばして読んでた感はあるんだよな。板垣恵介の娘だって知った時には流石に笑ったが(個性が研ぎ澄まされる遺伝子どうにかしろ)。
さておき、そんな作品がアニメになると聞いて「まー、割と話題にもなってたしなー」と軽い気持ちで視聴を始めたのだが、なんとまぁ、制作がオレンジではないか。「宝石の国」で歴史的偉業を成し遂げたストイックすぎるCG製作スタジオ・オレンジ。その功績は素晴らしいものだが、どうしたってあれだけのクオリティを発揮するのには時間も予算も人手も何もかもがかかる。そんなにそんなに作品を連発できるわけもなく、2年前に「宝石の国」を発表して以降、表立った活動は見られなかった。しかし、どうやら埋伏していたその期間には、この作品のために文字通りに牙を研いでいたようである。
「宝石の国」とは全く違う方向性の作品であるが、「現実ならざるもの」を描くというアニメーションの基本理念は同様である。まずは世界を組み上げるところから。今作ではずっと霧がかかったような薄暗い街並みと異質な風景が、一発目からガツンと世界観を打ち出している。そして、しゃらしゃらと現実感の乏しい宝石たちの生態に対し、こちらの作品はいわゆるケモノ作品。多種多様な生物種が全て人間と同じように二足歩行で服を着て生活している世界で、これまた現実感の乏しさでは負けていない設定であるにも関わらず、今度は出来るだけ「人間に近く」寄せることが求められている。これを思い切りモッフモフな方向性で「動物っぽさ」に持っていく方向というのが1つ考えられて、例えば「ズートピア」におけるヤベェレベルの毛並みの描写なんかは、「動物の動物らしさ」を前面に押し出した作り込みだったと言えるだろう。
それに対し、「汚ねぇズートピア」と称される本作の場合はどんな見せ方でいくのか。正直なところ、オレンジの持つCG技術をもってしても、海外資本のCGメイキングには太刀打ちできるものではなく、気が遠くなるような毛並みの微細な描写なんかで対抗する方向には進めない。しかし、今作における「ケモノらしさ」はそうした部分ではなく、むしろ人間的なリアルさに寄せることによって新たな描写の可能性を切り開いている。例えばごちゃごちゃとあらゆる動物がごった返している中にひょろりと伸びたキリンの首。彼女が喋るたびにぐいっと首も曲がるのだが、そのありようは確かにキリンだ。キリンの動きを丁寧に観察して再現している部分だろうが、しかしこれがまた人間的にも見える。そんな「あり得ない生態」が画面の中に所狭しとひしめいている。この偏執的な空気は、確かにオレンジの手のものだ。
他にも、「CGで高品質な動きを可能にした」というだけでは満足せず、徹底的に情景をドラマティックに描こうとする阿漕なまでの演出のこだわり。一言で表すなら「全編劇場クオリティ」であり、ベタだったり王道だったり、とにかくドラマ的な演出要素がてんこ盛り。もしかしたら本作が「舞台演劇」を1つのテーマに持っていることの表れなのかもしれないが、例えば冒頭の食殺シーンにおける光源と暗闇の使い方など、「なんかどっかの映画とかで見たことあるな!」みたいな定番の演出ではあるものの、1シーン1シーンの見せ方に意味が読み取れるために、非常にハイカロリーな画面が実現している。ラストのレゴシが本能に負ける演出なんて「風邪薬のCMかよ」って笑ってしまったが、こういうところで臆面もなくバリバリのCG演出に移行してそれまでの雰囲気を払拭してしまうあたり、本当に節操のない振り切り方が愉快だ。
こうして作り込まれた世界で展開される物語も、ズートピアでは流石にそこまで突っ込まなかった「食欲&性欲」という身も蓋もないものになっている。容赦ないビッチうさぎの造形とか、誤解を恐れずに書くならやはり「女性原作者の筆致って怖いよな」と思わされる切り込み。これだけのクオリティの画面で、今後あんな話やこんな話が進んでいくのかと思うと、「なんだこのリソースの無駄遣いは! いいぞもっとやれ!」と今からボルテージがあがるのである。ほんと、チャンピオンってのはよくわからないところで振り切れる方向性が凄まじい……。
さて、今後はどれくらいの没入度で見守っていくことになるかしらね……ちなみに中の人についても色々と書ける気もするが、個人的に1話目で気に入っちゃったのがレゴシだったことだけ書くにとどめておこう。誰かと思ったら杉元役だった小林親弘か。この人の味わいは在りし日の細谷のニュアンスを感じさせるなぁ。
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