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最近のアニメや声優、Magicに対する個人的な鬱憤を晴らすためのメモ程度のブログ。
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 鮮烈一閃、第5話。どこかのタイミングで現れるだろうと思っていた“もの”だが、この大舞台で、出てきてしまうものか。

 前回は心底晴れがましいお話で、助六としての成長、そして小夏との決定的な和解など、新しい時代に繋ぐ明るい展開ばかりのお話だった。随分珍しいとは思っていたが、もちろん、その先に訪れるものの前座だったのはある意味当然なわけで。

 与太郎が自分の殻をようやく破れそうな節目のタイミング、時機と見た菊さんは身を削るようにして助六の「居残り佐平次」を披露し、与太郎に最後の一山を設ける。難しい課題だったのは間違いないが、与太郎は持ち前の落語愛、そして樋口先生らの協力もあり、なんとか「自分の落語」の突破口を見出すに至ったようだ。正直、個人的には「居残り佐平次」がそんな大ネタだっていう認識はあんまり無かったのだが、樋口先生の話を聞く限り、ネタのスケール感よりも内容に肉薄するキャラクターの作り込みに特徴があるようだ。かくいう私は過去に聞いたことがあるのは志ん生のものくらいなので、あんまりバリエーションって分からないんだけども。何にせよ、あの菊さんが「諦めた」ってんだから骨のある仕事だったのは間違いないようだ。

 そして、そんな大仕事を披露する絶好の機会である親子二人会の企画がいよいよ進行する。飛ぶ鳥を落とす勢いの与太、そして今や落語会を代表する大看板となった菊さん。この2人の会ともなれば、落語会をあげて盛り上げるべき一大イベントである。周りの人間も当事者たちも、嫌でも力が入ることに。菊さんは良くも悪くもいつも通りの調子だったが、与太はここで大きくけじめをつけるために、以前菊さんが褒めてくれた背中の彫り物をしっかりと仕立てての大勝負。別に任侠に義理を果たすわけではないが、半端を咎めた師匠への筋を通すための仕事だろう。自分は自分で「我を通す」ということの表れがここに1つ見られる。2人会で与太が最初にあげたネタがあの因縁の「錦の袈裟」だったというのも、彼の決意表明ととることが出来るだろう。

 そして「居残り」を巡る菊さんとの問答でも、与太はある意味では「我を通して」いる。「我が無いのが自分」とは何とも不思議な話だが、遡って見れば与太をこの世界に踏み入れさせたきっかけが菊さん。そしてその菊さんは、「私の全てを引き継げ」ではなく、「八雲と助六の全てを覚えろ」と約束させたのである。つまり、そこには八雲があり、助六があり、そしてその後ろに与太郎がある。我を通すと言われても、まずは成立させなければならない「他」が絶対的に存在するのだ。だからこそ与太郎は「自分の落語」に迷っていたわけだが、樋口先生の言葉を借りるなら、「我を通すのも1つの型」。他人から無理強いされて「我を通せ」と言われてひねくり出した「我」にどれほどの価値があるかも分からないのだ。それだったら、「自分を空っぽにして」有象無象に引っ張り回されて作り上げる世界だって、一つの「我」と言えるのかもしれない。与太郎はそんな難しいことを考えているわけじゃなかろうが、菊さんだって「どうせこの馬鹿ァ大して考えちゃいない」ってんで、叱るのも無駄だと思ったのだろう。ガチガチに固い落語論なんかでぶつかることが無いのも、この師弟のいいところなのかも。

 そして明るい話はもう1つ。前回壁を越えた与太と小夏との関係性は、今回小夏と菊さんの間にも及んだ。元々女子供を楽屋に入れることを好ましく思っていなかった菊さんだったが、小夏の仕事ぶりを見て、ついに認める動きを見せた。思えば、菊さんが小夏に笑顔を向けてくれたのって2期目に入ってからだとこれが初めてだったんじゃなかろうか。「嫌なジジイ」だったが、彼は彼なりにずっと小夏のことを気にかけており、ようやく一人前になった彼女を見て、菊さんもフッと気を緩めたのかもしれない。

 こうして、与太は新しいステージに歩を進め、何とも奇妙な家族関係もここで円熟の兆しがあった。万事良しでここからが新しい時代だ、と思った矢先のこと……。

 菊さんが記念すべき高座にかけた噺は「反魂香」。死者の魂を呼び戻す香を焚き、先立たれた女房に会おうとする男の話。幽霊が出てくるとはいえ、基本的には賑やかに落とす噺。女房とのやりとりも艶があり、なるほど菊さんがやるに丁度良いし、与太との二人会にもしっくり来る演目である。しかし、ここ最近は寄る年波もあって体調を心配されていた菊さんには、どうにもこの噺は他の因縁がついて回ってしまった。

 今回の高座は、普段よりも広いホールでの催しということで、例えば舞台のライティングがやや陰影の強いものになっていたり、マイクから聞こえてくる声にいくらか反響があって会場の広さを感じさせるようになっているのが芸の細かいところ。そうしていくらか遠巻きにも見える菊さんの手元、最初は遠景からのカットが主だが、噺が佳境に入るにつれ、少しずつにじり寄って噺の中に没入していく。菊さんの指示で小夏が焚いたお香の煙は、当初舞台袖からたなびいていたが、気付けばその煙が菊さんの噺に取り込まれ、作中人物が焚いた手元から立ち上がるようになる。自然に作られていく怪しげな話芸の世界。八雲の作り上げる噺の真髄がここに表れているわけだが、あまりに真に迫った世界の有り様は、いつしか演者そのものを取り込んでしまう。菊さんが手元で焚いた反魂香。会いたかった女房が見えるというその煙の中に、ゆらゆらと浮かぶ忌まわしい面影。

 別に、会いたいと切に願ったとも思えぬ。そこに死者の意志が介在したなどというロマンチズムも無いだろう。しかし、菊さんにはそれが見えてしまった。長きに渡る彼の苦難の人生の中で、一番強く彼を冥土へと引き寄せる、あのみよ吉の姿が。噺の中の反魂香は「死者を現世に呼び出す」ものだったが、今の菊さんには、死者を引っ張り出すほどに現世に強い繋がりは無かったのかもしれない。香の力・噺の力は、いつしか生者を隠り世へと誘うものに。心のどこかに澱のように溜まり続けたあの日への後悔が、どうしようもなく菊さんを惹きつける。

 名人と呼ばれる八雲のこと、何とか噺だけはやりきってみせるのは意地の成せる業。倒れ伏した菊さんの前に立ちはだかるのは、もう1つの亡霊、助六の姿。彼は「あちら」へと菊さんを招き入れる。否、菊さんは、「招かれるべきだ」と未だに自分を責め続ける。2人を取り囲む蝋燭は、先代八雲を見送るようにして菊さんが産みだした「死神」の再演。未練もある。悔悟もある。しかしそれ以上に、先立った2人を想う、強い自責がある。落語を殺して自分も死ぬ。そんな菊さんの「心中」は、いよいよもって、その姿を現実のものにし始めた。

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