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最近のアニメや声優、Magicに対する個人的な鬱憤を晴らすためのメモ程度のブログ。
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 マスコミ間のどろどろした関係性に、色んな邪推が止まらない第10話。フジテレビが協賛してるこの作品でこの内容って……色々ひどいなぁ。

 前回の「天才子役」が他のエピソードとは完全に孤立していたのと同様、今回の主役である田辺満雄(置鮎龍太郎)はこれまでのエピソードでは1度も登場していなかった孤立キャラクター。前回と同様に独立してエピソードが描かれるのかと思ったのだが、今回は逆に他の回のキャラクターが積極的に絡んでくる、賑やかなエピソードとなった。具体的には、直接田辺と絡んだキャラクターだけでも猪野、岩村の2人、その他坂東もきっちり顔出しで登場しているし、池山も名前が出ているのに加えて義父の野村教授が田辺に絡んでいる。彼が最後に携えていたのは星山の書籍だ。10話までのキャラクターのうち6人がここで登場しているわけだ。他の回と違って田辺は他に顔を出さない一方通行のセッティングになっていたために、何とも不思議な印象を受ける。

 そして、最後まで見るとこの「一方通行」の理由が判明するように出来上がっているのが面白い部分。今回は「伊良部の注射」というこの作品のキーアイテムの能力を逆手に取った、一種の叙述トリックが展開されている。それが、田辺の年齢トリックだ。

 改めて見返すと、アバンで真っ先に注射を打たれるという構成からして今までと違って不自然な部分があり、それに続くように描写される17日のエピソード(岩村に最初にインタビューされ、倒れるシーン)では、田辺の顔はほとんど描画されない。描画されるのは唇を噛むときのアップや目のアップなどで、実はこの時点でよく見ると深い皺が刻まれた「老人」であることは読み取ることが出来るのだ。もちろん、前もって「注射後の田辺」を見てしまっている(前回の予告も同じ効果がある)ために、その映像で「実は田辺が老人である」ことにはなかなか気づけない。そして、18日に目が覚めた田辺はもう青年の姿になっている。これはおそらく、パニック障害で倒れたことによって、既に自らの中に現実との不和が生まれていることの表れだろう(実際、伊良部に「老人」という言葉を出された時に不思議そうな顔をしており、青年の姿は自覚的なイメージになっていることが確認出来る)。もちろん、「動物に変身しないな」という伊良部達の疑問は、「既に田辺は何らかの別なシンボルをまとっている」ということを視聴者に伝えるための伏線となっているわけだ。

 とはいっても、田辺が老人であることは、そこまで劇的などんでん返しとして用意されているわけではない。オチがすんなり入ってくるようにじわじわと視聴者に予期させる準備もそこかしこに用意されており、一番のヒントはやはりたびたび現れる回想シーン(田辺からすると『幻』)だろう。高度成長期を思わせる数々の実写が並び、次第にその中で取材に明け暮れた田辺の姿も現れるようになる。この実写映像の取捨選択も興味深く、例えば「栄光の3番」長島茂雄のイメージは田辺と野球の繋がりも同時に想起させるし、建設途中の東京タワーは、田辺のメディア人としての一面を連想させる。もちろん、これらの映像は昭和の激動の時代を思い起こさせるモチーフとしても機能しており、田辺の年齢を含めたアイデンティティの記述として多重の意味を持っている。社長室で夕日を見てフラッシュバックが起こるというシーンも、沈みかけた夕日が人生の下り坂を進み始めた老齢の田辺のイメージを喚起させる。

 もちろん、そんな細かな描写よりも、田辺を取り巻く数々のイメージが、日本の大妖怪、渡邊恒雄のイメージと被っていることが、「老人」への接続に直接的な役割を果たしているのは間違いない。田辺の経営している大日本新聞社は日本放送=読売新聞であるし、グレートパワーズはジャイアンツだ。ご丁寧に「ナベマン」というあだ名まで明記されており、新聞、メディア、野球と日本の文化の中枢を掌握してきたナベツネを知る人間ならば、ナベマン=ナベツネという対比は絶対に頭から離れない。その「前もって存在する知識」が、最後のオチに自然に結びつくように出来ているわけだ。これはなかなかうまい。もちろん、(フジテレビから見れば)他社のお偉いさんを貶すような内容には出来ないために、「報道人として真摯な姿勢で挑み、現在のメディアの腐敗と脆弱さを嘆くひとかどの文化人」という田辺のキャラクターがきちんと描かれているのも面白い部分ではある。この作品を見た後では、なんかナベツネもいい奴のように見えてくるしな。

 そして、ここまで理解出来たところで、ようやく今回の「一方通行」の理由が分かる。これまでのエピソードで田辺と他のキャラクターの絡みを描いてしまったら、他者視点から「ナベマンが老人であること」が他のエピソードで分かってしまうのだ。そうならないようにするために、田辺はこれまでのエピソードでは登場するわけにいかなかったということだ。

 とまぁ、色々な伏線と余談を挟みつつ、最後には野球場で坂東の打ったホームランボールをアメイジング・グレイスに合わせてキャッチ(未遂)することで、ナベマンは時代の変化を悟り、ゆっくりと老人に戻っていく。今回の症状である「パニック障害」はいまいち理解しにくい症状だったのだが、おそらく伊良部のいうような「権力への固執」が一因としてあり、さらにその固執が「自分が時代を変えなければいけないという義務感」に根ざしたものであることが理解出来る。途中、田辺の時代観は完全に昭和のそれに戻っており、「アメリカの属国として立脚している未熟な日本を変えなければならない」と述べるのだが、この台詞が今の日本でもほとんど変わりなく使えるあたりが、小憎らしい風刺といえるかもしれない。

 今回もなかなか技巧に富んだ面白い回だったが、全てが片付いて老人となった田辺の声もきちんと演じ分けられる置鮎の技量には舌を巻く。じじいになっても格好いい声って、こういうのなんだろうなぁ。

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