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最近のアニメや声優、Magicに対する個人的な鬱憤を晴らすためのメモ程度のブログ。
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<以下の文章は、放送当時に執筆されたものである>
 
 
○第11話「滲んだ頁」
 脚本・高木登 絵コンテ・名村英敏 演出・吉田俊司 作画監督・安田京弘、野尾高広


 <あらすじ>
 最近、東京では物騒な事件が起こっている。ビルの上から人の足におもりをくくり付けて投げ落とすという、奇妙な連続殺人事件だ。被害者は既に4人を数えており、週刊誌などでも話題になっている。ゆずきは秋恵にその事件のことを教えられる。実は、この事件はとあるミステリ小説を模倣したものだというのだ。「摩天楼の影」というその作品の作者、上坂六郎は、賽河原市役所の職員の1人だった。
 
 書店で女子中学生が自分の作品の話をしているのを聞いた六郎。彼の回りでも、やはり連続殺人事件の話題は持ち上がっていた。今のところは、作家としてはそれなりの売れ行きで順調に仕事が出来ている。同僚からはサインをねだられ、編集からは重版の確約。うまくいけば映画化も無い話ではない。
 
 しかし、六郎はやはりあの事件のことが気になっていた。編集との打ち合わせは、自然に事件と作品の関係性に及ぶ。そんな彼をみても編集は至って気楽なもので、「どうせああいった事件で槍玉に挙がるのは漫画かアニメですから。とりあえず新作、お願いします」と平気な顔。だが、やはり六郎には人ごとではない。ネットの批判を見れば売名行為だのなんだのと叩かれてもいるし、影響があるかどうかは分からないが、気分のいい話ではないのだ。
 
 そんな彼に、とあるルポライターが取材を持ちかけた。彼女の名前は浅羽須美。まだ若手だが、自分のジャーナリズムに信念を持つ女性だ。六郎との取材に臨んだ須美は、六郎が真面目な人物で、自分の作品を模倣していると思われる事件に心痛めていることを知る。ネットでの誹謗中傷に晒され、彼が辛い思いをしていることも。取材を通して、彼女は六郎の思いをきちんと記事にすることを約束する。
 
 そんな取材と同時に、例の事件の犯人が検挙された。犯人は越智浩人という高校生。そしてお約束通りに、越智は「ある小説が格好よかったから真似したかった」と供述する。さらに追い打ちをかけるように、翌週発売された週刊誌には、六郎について、根も葉もない嘘ばかりが並べられていた。六郎が非常識で、反社会的な人間であるかのような記事。越智の供述とも相まって、六郎の回りには非難混じりの取材が相次いだ。安易にマスコミに気を許してしまったことを後悔する六郎。書店では中学生が六郎を悪し様に罵っており、報道では六郎はすっかり悪役。職場の同僚も、「迷惑だ」と言い捨ててサイン入りの本を投げ返してくる。
 
 そんな嘘八百の週刊誌に裏切られた人間がもう1人。六郎の人となりを正確に伝えようとした、ライターの須美だ。彼女の書いた記事は、面白くないと判断した編集長により、勝手に扇情的なものに書き換えられていた。「真実なんてものは、いつか誰かが勝手に書くもんだ。今回はたまたまお前の番じゃなかったんだよ」と言ってのける編集長に、須美は雑誌を叩き付けて会社を出る。上司を信用したばかりに自分のライターとしての立場も失われてしまったが、彼女が気にするのは、やはり六郎の存在。自分の力が及ばなかったばかりに、彼の人生はめちゃくちゃになってしまったのだ。
 
 ある日、秋恵とゆずきは、街へ出る途中で道を聞かれる。東京からやってきたというその女性をつれて3人で市役所へ向かう中、彼女が例の事件の最初の被害者の姉であるという話を聞く。彼女の名前は道生由比。由比は犯人の越智との面会の中で、彼が「あの小説を読んだら、現実と物語がごっちゃになって、わけが分からなくなった」というのを聞き、一体今回の事件で本当に悪いのが誰なのか、分からなくなったという。悪いのは少年か、それともあの小説の作者なのか。それを自分で確かめるため、彼女は作者がいるという賽河原にやってきた。
 
 市役所で六郎と面会する由比。「自分は書きたいものを書いただけで、悪意は全く無い」と訴える六郎に、由比は例の週刊誌を取り出して訴える。六郎は当然「それはでっち上げで、根も葉もない話だ」と説明しようとするが、由比にとっては、どちらも信じられない話。単なる言い逃れでないのか、と詰め寄ろうとしたところに、今度は須美が現れる。その記事の話は全てでたらめで、その責任は、全て自分にあると、彼女は深々と頭を下げる。
 
 須美の誠意のある態度に、六郎は彼女を責めることをしない。ここにいるのは、全員が「被害者」である、と。須美が手に入れた情報によれば、犯人の越智浩人は、「小説の名前を出せば罪が軽くなる」と逮捕前に言っていたらしい。つまり、越智は由比の前では判断力の無い悲劇の若者を演じていただけだったのだ。マスコミに踊らされ、作家生命を立たれた六郎。編集長に裏切られ、ジャーナリストとしての尊厳を貶められた須美。そして、心ない若者に妹を殺された由比。3人の「被害者」の中に持ち上がったのは、復讐のための道具、「地獄通信」。
 
 彼らは示し合わせて3つの藁人形を入手し、3人が揃って糸を解く。由比が流したのは、妹を殺した犯人である越智。須美が流したのは、自分を、そして真実を裏切った上司。六郎だけは明確に流したい相手が見つからなかったが、自分の生活をボロボロにした者たちの象徴として、サイン本を投げ返してきた同僚を流すことにした。「世間に迎合している人間は罪深い」と。3つの地獄流しが同時に遂行され、「少しだけ、世間の風通しが良くなった感じですかね」と、3人は静かに頷く。胸にはみんな等しく刻印が刻まれる。
 
 「これも何かの縁ですから、また何かあったら3人で集まって飲みましょう。地獄会、とかいって」。弱々しく笑う六郎に、残りの二人も笑い合う。その瞬間、ガランと六郎の持った缶が落ちる。いつの間にか、六郎の姿は無くなっていた。彼は、地獄に流された。依頼したのは、越智の母親だった。心無い人殺し小説によって息子の人生を滅茶苦茶にされた母親は、その作者を怨み、地獄に送ったのだ。
 
 「こんなことをして何になる!」 地獄流しの船上で叫ぶ六郎だったが、理由なんて無いことは、彼が一番分かっていることだった。
 
 
 <解説>
 「三鼎」に入ってからは、一番明確にプロットが凝った回。メインストーリーはまったく進まないが、これ一本でかなり密度の濃い話作りになっている。
 
 演出面では取り立てて目に留まるような部分も無かったのだが、僅か30分の間で4つもの地獄流しを実行させた構成は見事なもの。本来ならば駆け足で状況の説明に終始してしまいそうなものだが、特に急いでいるような印象も与えず、普段通りの構成からラストは怒濤の連続地獄流しにつなげる。これだけでも充分に見応えのあるエピソードである。一応2期の終盤はこれに倍する勢いで地獄流しが行われる場面もあったといえばあったのだが、きちんと動機付けが説明された上でのスピード展開は、ちょっとでも説明が不足したら成立しない、きわどいバランスといえるだろう。
 
 今回の明確なモチーフは、当然「同時大量地獄流し」というネタからの発展だろう。これまで藁人形が同時に2つ以上存在するという状況はほとんど描かれておらず(前述の通りの紅林拓真編を除く)、地獄通信へのアクセスから地獄コントまでの流れも非常に珍しいものになっている。3人のアクセスの様子が三元中継で描かれ、六郎には輪入道、須美には骨女、由比には一目蓮が渡される。となると当然最後に六郎を流した藁人形は山童だったってことになるのだが、今回のエピソードが成立するためには、当然「三藁」では足りずに「四藁」である必要があったわけだ。まさか、この話を作るためだけに「山童」という新キャラクターが登場したのだろうか。もしそうだとしたら、今回はかなり重要な回だったってことになる。ま、流石にまだ何か理由はあると思うけどねぇ。
 
 ビジュアル的には3つの藁人形がグルグルと弧を描いて消えていく「怨み、聞き届けたり」は面白かったし、地獄コントも3人とも「ビルの上からの転落」という、実際の連続殺人を模したもので共通している。ただ、1つ気になるのは、この3種類のコントフィールドが、全て同じ領域だったのかどうか、というところ。本当に同時に糸を解いたおかげで、3つの地獄流しは同時進行である。その証拠に、越智浩人のコントには一目蓮だけ、須美の上司である編集長のコントには骨女だけが登場し、最後に描かれた六郎の同僚のコントに、輪入道が登場して「だとよ、お嬢」からの決め台詞に繋がっている。全て別々のフィールドだとしたらあいは3回口上を言っていることになるが、同じフィールドで全員同時に落ちたと考えれば、一応あいの手間は1回ですむ。まぁ、その場合には地獄流しの船上で3人が顔を合わせることになるのかもしれないけど……その辺りは船のシーンとかが描かれていないので、想像に任せるしかない部分。最後の口上の後のシーンで、六郎の同僚が「こんなことして、何になるんだ〜!」と叫ぶと同時に地面に叩き付けられる直前で画面が止まり、BGMも消えるという演出で、「コントはここで幕切れ」という印象を強く押し出し、その後の船のシーンが無いことをうまいことごまかしている。このあたりのきわきわの構成も、改めて見てみると実にうまい。余談だが、今期の口上は、「私のセンセイ」の時と「うそつき」の時、そして今回と、やたらあいが逆さまになって言う機会が多い。あいが逆さになっての決め台詞は「高い塔の女(1期6話)」くらいしか記憶に無いのだが、やはり「地獄への転落」というイメージを持たせやすいので今期は多めに使われているのだろうか。
 
 さて、プロットが面白かったせいで構成上の話題ばかりになっているが、今回のストーリーには、もう1つの興味深いモチーフが組み込まれている。それが「情報」である。具体的には、3つの地獄流しがそれぞれ「ネット」「マスコミ」「小説」という3つの情報媒体の違いを体現し、問題提起として扱う形に構成されているのだ。具体的には、六郎がネット媒体の無責任な誹謗中傷を憎み、須美はセールスのために真実を意図的にねじ曲げるマスコミを怨み、由比(と越智の母親)は無責任な空想話で一人の人間を犯罪者にまでしてしまった小説媒体に復讐を願った。
 
 他にも象徴的なのは六郎と編集の会話で、「どうせやり玉にあげられるのは漫画かアニメですから」と高をくくる編集の発言は、まさに漫画・アニメ媒体で発信されているこの作品にとってはある種の自虐ネタともいえる。幸いどう頑張っても地獄通信をリアルで出来る人間はいないから問題なかろうが、「school days」の放送中止、一連の「ひぐらし」叩きなどの昨今のアニメ事情を考えるに、鬱と怨みの集合であるこの作品も、製作側は色々と神経を使っていることだろう。(現注:そういやそんな時期だったなぁ)
 
 しかし今回作中で扱われるのは「アニメ」ではない。まず、一番明確に現れるのが「マスコミ」。六郎は虚偽報道の犠牲者となり、マスコミ内部にいた須美も、自分の意志とは異なった情報が流されるという被害者。そして由比はそんな嘘偽りに踊らされる大衆の象徴。携わる全ての領域の人間に悪意が無いのに悪影響が出る、マスコミというものは一人歩きを始める怪物のようなものである。そしてそんなマスコミの「うさん臭さ」をさらに昇華させたものが「ネット」。六郎は当初「自分を貶めた書き込みをした人間を全員地獄に流してやりたい」と言うほどに、ネットの情報に対して嫌悪感を持っていた。しかし、実際に地獄流しをすることは出来ない。ネットという媒体の持つ匿名性と集合性というものが、近年ではマスコミを上回る勢いで力を付けてきていることの現れであろう。
 
 そして、1つだけ特異な立ち位置にある情報ソースが「小説」である。前者2つとの最大の違いは、受け手側がフィクションであると認めて受容するという部分だが、今回の事件のように、そんなフィクションがフィクションとして扱われない風潮が、昨今は幅を利かせている。「書きたいものを書いただけなのに」という六郎の主張は当然のものであるのだが、実際に彼を流した人物がいることから分かる通り、「フィクションだから」と前置いただけでは、それを割り切って受け止めない大衆というのも数多く存在しているのである。
 
 かたや「真実たれ」を理念としつつも、フィクションとして一人歩きしてしまうマスコミという媒体。かたや「フィクションたれ」を理念としつつも、その力ゆえに受け手の中では真実として力を持ってしまう「小説」という産物。そしてその間で不可思議な力を付ける「ネット」という世界。情報の正しさとは何なのか。そんなことを考えなければいけない、アニメクリエイターたちの不可思議なメッセージとしてみても、今回のエピソードはなかなか興味深い。
 
 「可哀想だねぇ。自分が殺したわけじゃないんだろ?」という骨女の同情に対して、輪入道は「因果な商売って奴さ。物書きなんて、みんなそんなもんじゃねぇのか?」と言っている。物書きになるには、それ相応の覚悟が必要ってことだね! しかし……輪入道は元車輪のくせに知ったような口を聞くよな。新聞もろくに読まなかったくせに(「この国のために(2期15話)」より)。
 
 今回は当然のように大量のゲストが来ているが、そんな中でもメインを務めたのが、上坂六郎を演じた千葉進歩。実は彼、1期でも一度地獄流しを経験している(「零れたカケラ達(1期12話)」)。シリーズ初の「2回流された声優」の地位を獲得しました。やったね! ただ、実は同時に流された編集長役の伊丸岡篤も、今回2回目だったりする(1度目は紅林拓真編のどさくさで流されている)。つまり、今回流された4人のうち2人が経験者だったわけだ。まぁ、千葉さんの場合は今回流す側と流される側を兼任してるので、「地獄流し1回、地獄流され2回」というタイトルホルダーになってるわけですけど。そういや、ラストシーンで蝋燭が消える演出は今期では初めてだったか。何度見てもあれはドキッとするね。
 
 その他のキャストは、ルポライターの須美役に増田ゆき、道生由比役には升望。うん、コメントに困るキャストだ。殺人犯の越智浩人役の野村勝人が一番若いかな。野村君は今後が楽しみな若手の1人だったりしますよ。(現注:残念ながら、2012年現在では目立った活躍がないのである)

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