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最近のアニメや声優、Magicに対する個人的な鬱憤を晴らすためのメモ程度のブログ。
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 次回予告の出囃子が志ん生! 第8話。あんまり他の噺家さんの出囃子なんて分からないんだけど、幼い日に(CDだけど)すり切れるまで聞いて育ったのが志ん生の全集だった身としては、やっぱりこの曲こそが「落語の出囃子」なんですよ。訳も分からず嬉しくなります。

 さておき、本編も心底感極まる展開。もう、視聴中はずっと涙が流れっぱなしになります。それは悲しい涙だったり、嬉しい涙だったり、まさに悲喜こもごもではありますが、菊さんの積み重ねてきた人生のあれこれに対し、生中な気持ちでは観ることを許されません。

 菊さんの入退院から、また随分時が流れたようだ。与太の野郎が弟子をとった、なんてとんでもない展開がサラッとながされていたし、一番分かりやすい時間の変化は、着々と大きくなっていく信乃助。もう小学生くらいになっているのだろうか、そう何度も聞いたわけでもなかろうに、落語の調子をそらんじながら過ごす首までどっぷりの生え抜き小僧。その血の濃さは容姿にもはっきりと表れており、グッと濃い男前の助六の面影はますます強くなる。菊さんはそんな「孫」の顔を見て何とも複雑な心境ではあろうが、割とあっさり「本当のじいさん」の話をしているところを見ると、特に隠し立てするとかいう意識もなく、本当にフラットな関係性で孫に接しているようだ。まぁ、そのへんは信乃助に分別がつくようになったら少しずつ説明はつけていくんだろうけども。

 すっかり老け込んでしまった菊さんだったが、高座に上がれない身の上でも、まわりの人間は容赦無い。そしてその多くは、樋口先生に代表されるように、「八雲の落語はもう菊さん一人のものじゃない」という意識で復活を望んでいるようだ。戦後の混迷期を支え、落語文化の守り手となった八雲と助六。その大きな礎は、本人の意志とは別のレベルで、何とかして残そうという動きがあるのはしょうがないところ。樋口先生はずけずけと言い過ぎだし、慇懃な態度で一応菊さんに選択権を与えているように見えて、もう完全に強迫になってしまっている。でもまぁ、その辺は菊さんも諦めているようで、ため息混じりに強引な男のいう通りにしてしまうだろう。一応、そんな樋口先生の豪腕も悪いことばかりではなく、懐かしいあの日の写真が見られたり、老人の郷愁を満たすのにも一応の役は果たしているのではなかろうか。

 しかし、やはり応えられない期待ってのはプレッシャーになってしまうもので。高座に上がれない苦しみ、そしてあがれないからこそどんどん衰えていく心と身体。自分の居場所を求めてフラフラと出歩く菊さんを、与太と小夏がつかまえる。橋の上ってのは今も昔も「死に際」の代名詞。落語の名作なら「文七元結」あたりが有名なところで、当然、落語夫婦がフラフラと橋の上に出てきた老人を見てしまったら、そういう想像が先んじるのも仕方ないところ。仕方なくはあるのだが……小夏さんの叱咤は本当に心に来る。別に死ぬつもりは無いがフラッと出てきただけの菊さんに、「身を投げて死ぬんじゃないか」と詰め寄る小夏。当然、そこには同じように「身を投げた」心中劇、助六とみよ吉の姿が重なるはずだ。そして、小夏は「アンタは罪を償っていない」という。もちろん、小夏は心の底から菊さんを責めているわけじゃない。昔はそういう部分もあったが、今となっては、そんなこたぁ責めるつもりもないだろう。しかし、菊さんが生きる理由を一つでも突きつけられるなら、小夏はそういうしかないのだ。そして、そんな「罪」の真実を知っているからこそ、菊さんも、そして与太郎もこの小夏に返す言葉が無い。菊さんが一生を賭して「でっち上げた」偽りの罪の存在を、ここで小夏にどうすることもできない。菊さんからすれば、この時の感情は悲しみなのか、後悔なのか、諦観なのか。

 改めて自分の人生の意味を突きつけられ、菊さんは本当に参ってしまう。普段だったら憎まれ口の一つも叩いてなかなか弱みは見せないところなのだろうが、自分が抱えている不安も悩みも怒りも、全部愛弟子にぶちまけて、「八つ当たり」をする。師匠から「お前みたいな噺家に何が分かる」なんていわれてしまったら、普通の弟子なら打ちのめされてしまうところなのだが……そこは与太郎だ。ちぐはぐながらも長い付き合いの弟子と師匠。このリズムこそが、与太が与太でいられる理由なのかもしれない。師匠の話はそれはそれで聞くけど、「ところで」ってなもんで。突然こんな風に頭を下げられてしまっては、みっともない姿を見せて取り乱した菊さんだってあっけにとられちまう。「この馬鹿に何を言っても効きゃぁしねぇ」ってんで、悩みも怒りもぽろりと抜ける。そして、何ともお気楽な落語観でもって、菊さんの悩みなんて上書きしてしまうのだ。もう、このシーンの菊さん、本当に絶妙な表情をたくさん見せてくれて最高でした。

 そして、菊さんの背中に最後の一押しを加えるためのドキドキのBパート。松田さんという首魁(それにしても元気なじいさまだな)を中心とし、結託して菊さんをはめたのは全国菊さん愛好会の皆様。確かに本人の意志を無下にするのはいかんことだろうが、おそらくみんな知ってるんだ。口では何と言おうと、菊さんが一番落語をやりたがってることを。だからこそ外堀を徹底的に埋めて、なし崩しで高座にあげちまおうって作戦に出たわけで。一度は帰りかけた菊さんだが、人前に引きずり出されたら絶対に背中を見せないのは芸人の意地。稀代の大師匠は、無難な受け答えから次の展開を待つ。とりあえず、馬鹿弟子の出方を見てからの判断だろう。

 そして、ここで与太がかける話はこれまでの流れから「居残り」になるだろうと思われたのだが、なんと、ここでしかけた「趣向」ってのが実に攻めっ気あふれる演目。そう、あの日の助六、「芝浜」の再演だ。菊さんからすれば、それは夢のようだった若き日の名残でもあり、あの忌まわしい悪夢の夜の前兆でもあり。自分の言葉を馬鹿正直に貫き通して助六を受け継いだ弟子の仕事ぶりを見て、あの日の気位が幾らか戻ったかもしれない。

 与太のしかけた「芝浜」の一席。これまた随分と念の入った仕上がりだった。例によって、与太郎の芸ではあまり「話の中の世界」のオーバーラップ演出はない。先代助六と同様、「噺の中身」というより「与太の世界」が中心になるからだ。今回わずかに芝の浜辺の波の様子が重なった様子が見られたが、あくまでも世界は「与太郎のもの」だ。しかし、これまでの与太とは大きく違う点が1つ。それが、途中から彼が流し始めた涙である。確かに噺の中で、あの夫婦は泣いていたかもしれない。しかし、ここまでの涙を流すことはない。噺と乖離した、「与太郎の涙」だ。普通、演者は「泣く演技」こそすれ、本当に泣いてはならない(声優業界の定石)。先代助六だって、噺に入り込んで泣くなんてことはしていない。しかし、与太郎は泣いてしまう。泣きながらしっかりと噺を作る。それが、芝浜を作った助六に捧げる思いなのだ。最後に菊さんは、「映像の中で助六は泣いていたかい?」と尋ねた。弟子の仕事の不備を指摘する師匠の役割を果たしながら、助六に何を見たかを問い、与太が得たものを確認するためだ。与太は「確かに泣いていた」と答えた。助六が落語をやる喜び、そして、その時間を共有していた菊比古の喜び。映像の中で2人は笑っていた。高座に立たない今の菊さんは、果たして泣いているのか、笑っているのか。

 「芝浜」という演目も、こうして見てみるとまた意味深長なところがある。一夜にして大金を得たと思った漁師が、目覚めて見たら手にした大金を失っている。女房にそれは夢だったと諭され、自分の行いを悔いて心を入れ替えて真面目になり、改めてあの日を笑えるほどにまで身を立てる。そしてそこで、妻から突如、あの日本当に「あった」大金を差し出されるのだ。大切だと思っていたものでも、無くしてしまった後に悔いるだけではなく、なくした後にどのように生きるかが大切だという一種の訓話じみたところがある噺。そして、そんな噺を聞いて、「全てを失った」と思っている菊さんは何を思うか。ポロポロと自分の身から落ちていく過去の財産。何も出来ないとふさぎ込む日常の中で、本当に大切なことは、「失った後」なのではないか。完全になくなったと思っていた助六の思い出だって、こうして弟子の手を借りてポッと後世に蘇ることだってある。あの日の思い出は、夢だったのか、現だったのか。それを決められるのは、今を後悔しないような生き方をした者だけではないのか。

 菊さんは立ち上がった。たくさんの後援者に、そしてどうしようもない馬鹿弟子に背中を押され、改めて、自分の夢の所在を探す決心をした。ここからが、有楽亭八雲の、最後の花道だ。

 そして、間の悪さというのはどうしようもないもので……。菊さんの高座が聞けるのは、いつになるのだろうか。

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