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最近のアニメや声優、Magicに対する個人的な鬱憤を晴らすためのメモ程度のブログ。
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 最後の最後まで、そのしたたかな演出プランを貫き通してくれた最終話。9話ではこれまでの流れを断ち切って「他のキャラクターと繋がらない主人公」を描き、10話では「繋がっていたのに描けなかった主人公」を描き、最終話はどんな主人公かと思えば、なんと「精神病に至る手前の主人公」であった。精神疾患という難しい題材をコミカルに扱い続けてきたこの作品だが、きちんと最後の最後で意味のあるメッセージを送ってくるあたり、実に如才ない。

 今回の主人公・津田英雄(古谷徹)は、6話の主人公、津田雄太の父親。6話でも一言だけ台詞があって「なんで古谷徹なんだろう。無駄に豪華だな」と思っていたら、ここでその真価を発揮してくれたことになる。

 英雄は、救急病院の責任者として日々命の現場に挑み、責任を持って仕事を全うしながら、部下への気遣いも忘れない仁の人。回りからの信頼も厚いし、医者としては申し分のない人物。しかし、そんな彼もご多分に漏れず家庭に問題を抱えており、コミュニケーション不足の息子は「ケータイ依存症」になってしまっていた。そして英雄自身はというと、今のところ具体的に病名のつくような疾患は患っていない。その証拠に、伊良部に注射を打たれたあともシンボル変化はなく、画面上に病名も表示されない。しかし、伊良部はそんな英雄を見ながら、「普通の患者なんかよりもこーいう普通の人が一番めんどくさい」と言ってのける。そしてその言葉通りに、英雄は何とか自我を保ちながらも、どんどん「めんどくさい」状態へと突入していく。

 実際のところ、トイレの個室に籠もって家族への不平不満を爆発させる英雄は、終盤には充分「病気」と断じてしまっていい状態になっていただろう。叫んでストレスがはらせる内はまだいいのだが、22日の時点では呼び出しを続ける携帯を見て患者の問診中に露骨に顔をしかめているし(そういや病院で携帯って大丈夫なのかな)、24日になると、ついに堪えきれずに問診中にもかかわらず電話に文句を言い始め、あげくトイレに籠もるという、職場放棄に至っている。ここまでくると、単なるイライラではなくて充分に「病気」だ。

 そして、そんな彼の病気のシンボルは、実は現れていた。それがトイレの個室でグニャグニャと落ち着きなく変化する彼の面相、つまりは「子供」である。これまでの患者達も、注射を打たれることによって自らの症状を象徴するような動物に変化してきたが、今回の英雄の場合は、嫌なことを他人に押しつけて逃げ道に駆け込む、「幼稚な子供」こそがそのシンボルである。注射を打たれて数日、彼の「症状」が進行したことで、「子供」は表面上にあふれ出した。

 今回、伊良部はこれまでのように画期的な治療でもって英雄を治療することはない。臨界点を突破した英雄に自分の現実を突きつけ、家族への姿勢を考え直すように諭しただけだ。画面の中では黒くよどんだ彼の体内に手を突っ込んで「膿」のようなものを取り出す描写はあるが、これまでも超常的な治療は行わなかった伊良部のこと、あくまでショック療法で彼の中の病巣を取り除いたことのメタファーと捉えるべきだろう。これにより、彼の中に溜まっていた「病気の根源」であるどす黒い染み(彼のイライラを集積させるトイレに堆積していた)は取り除かれ、英雄は子供から大人に戻る。ある意味、発症から治療までの期間が最短の例と言えるかもしれない。

 今回も色々と感心させられた部分が多いのだが、メインプロットで特筆すべきは、やはり津田親子の関係性だろう。6話の時点では完全に「息子の責任」だと思われていたケータイ依存症だが、今回のエピソードにおける津田家の食卓を見ると、実はその根本的な問題が英雄の方にあったことが分かる。息子の雄太にとって、携帯は父親を仕事に束縛し続ける目の敵。英雄は「食事中に携帯を使うな」と注意した直後に、自分は仕事場からの電話に出て食事をないがしろにするし、雄太に注意するときも、一声かけただけですぐに携帯に注意を向けている。父親の逃げ道である携帯を見て、息子も同じ「症状」へと逃げ込んだ。

 そして、こうした津田家の「崩壊の兆候」を、端的に表現したのが今回の「カナリア」という題材であった。伊良部の言う通り、雄太という存在は英雄があらゆる物事に縛られて、精神的に危うくなることの危険信号として働いていた。仕事に追われ、家庭を顧みなかった男のために、まずその家庭で最も過敏である息子が歪む。雄太が歩く道すがら、カナリアが息絶えたのは象徴的なメタファーである。これまで扱ってきた様々な「症状」。それらはあくまで結果であり、そこに至るまでの経緯は当然全てについて回る。事後治療は伊良部の専門だが、それ以前の「環境」にまず目を向けよ、というのが、この作品を通じての最大のメッセージだったわけだ。なかなか小利口なまとめ方ではないか。

 今回のエピソードは、序盤はおおよそ見たことのある津田家のエピソードだし、これまでのような時系列ネタで面白い部分も少なくて「なんか地味だなー」と思っていたのだが、Bパートの怒濤の展開は圧巻。トイレで叫び回る英雄の狂気を孕んだ様子は、これまでのどの患者よりも危険で、真に迫っている。いつも通りの展開だが、これはもう中の人を褒めるしかない。そしてこの英雄の暴れ回るパートは「主人公の顔が実写」という仕込みが最大限に活かされたシーンでもあり、大人から子供へとコロコロ体型の入れ替わる英雄の外見に、非常にえげつない形で古谷徹の実写の顔が絡み合う。体型は幼児なのに顔だけ実写のおっさん。しかもその顔には引きつった笑顔。このビジュアルは強烈だ。古谷徹には申し訳ないが、最大限に実写を活かした「気味の悪さ」が出ていた。この効果は頻繁に顔出しでテレビに出演している古谷徹だから得られた効果とも言えるかもしれない(また、古谷は離婚経験者でもあるため、作中の「家族なんか持つもんじゃない!」という英雄の叫びも何となく深読み出来てしまう)。他にも、今回はラストということもあってマユミちゃんが色々と活躍し、最後には雄太の頭をポカリと叩くのだが、実写と作画の絡みがなかなか面白い形で出ていた。

 どんな風に幕を下ろすのかと気になっていた今作だが、尻すぼみすることなく、最後まで非常に楽しく見させてもらった。ただ、今回のエピソードのおかげでこれまで画面の端々に映っていた「カナリア」の含意が分かってしまい、「ひょっとしてもう1回最初から見直さないと全部の伏線が回収出来ないのではないか」と戦々恐々ではある。まぁ、最終話の感想は「父親が古谷徹で母親が井上喜久子って、どんだけ贅沢な家族やねん」だったけど。 

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