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最近のアニメや声優、Magicに対する個人的な鬱憤を晴らすためのメモ程度のブログ。
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 不器用な連中ばっかりだよ……第12話。この作品のタイトルを見れば分かっちゃいたことではあるが、やはり辛い仕打ちだ。誰が悪いってこともないのになぁ。

 今回も見せ場だらけのお話だが、AパートとBパートではっきりとその目的が分かれており、そのどちらにも目の覚めるような内容である。まずはAパート、二人会で演じられる菊さんと助六の一席。菊さんはあくまで前座の役割であり、わざわざ東京から持ってきた「八雲」の紋付きで上がらせた助六の高座が本番。ここで、満を持しての大ネタ「芝浜」。このネタを披露した意味は、Bパートのみよ吉との関係性が大きな役割を果たしているわけだが、それ以外にも、数年間のブランクを空け、本当に久しぶりに「やりたくねぇ」と言っていたはずの落語にも関わらず、こうして大ネタをぶち上げたあたりに彼の性分が窺えるだろう。流石に東京では真打ちを張っていた男。長年田舎の隠遁生活を続けていたものの、その腕は衰えず、これまで菊さんが見たこともないような新たな人情噺でさらに上のステージへと登っていた。「落語は人が作る」というのが彼の台詞であったが、まさに、稽古や日々の公演以外で培われた、「助六の人生」が集約された一席である。

 そして、多少メタな視点になるが、この「芝浜」のシーンは非常に冒険的な演出でもって構成されている。実際に見ている分には何も特別なところが無いシーンなのだが、「芝浜」というのは本来ならば最低でも30分、ものによってはたっぷり一時間は使おうという大ネタである。普通に考えれば、アニメの中にこれを押し込めるには、ほぼぶつ切りのダイジェスト状態にするしかない。しかし、今回のアニメの中では、助六がこの「速回しの芝浜」を違和感なく演じているのだ。確かに物語の要点だけを追うダイジェスト版になっているものの、そのピックアップに過不足が無く、限られたAパートの枠内で、自然に成立するギリギリのバランスを維持している。今作の高座のシーンはアドリブではなく、きちんと台本が用意されているらしいが、この台本を組み上げるのは相当な難行だったことだろう。さらに、これを演じて自然な呼吸を生み出す山寺宏一の手腕。彼の台詞にきっちり画で追いかけるスタッフの尽力。この辺りが全て集約されて、わずか10分そこらの「芝浜」が生み出された。簡単に見えるかもしれないが、これが簡単に見えてしまうことがむしろ恐ろしいことなのだ。サゲのワンシーンの余韻の持たせ方まで含めて、全てがパーフェクトだ。

 一転、そんな「落語」に心血を注ぎ込んだのがAパートであるなら、Bパートはタイトルから「心中」の要素を切り出したパートといえる。ラスボス的存在といえるみよ吉が満を持しての登場だ。それまで、菊さんと助六は和やかに講演会の余韻に浸っており、菊さんが「東京に来てみんなで一緒に住もう」と提案するなど、現時点で可能と思われる最大限の譲歩、雪解け案を提示している。昔とはすっかり変わった菊比古を見て、助六もまんざらでもない様子だった。しかし、そんな男2人の間にいるみよ吉はそんなに簡単ではない。菊比古を呼び出してしなだれかかる彼女には、これまでの波瀾万丈な人生で積もりに積もった澱のような「陰」が籠もっている。端的に言ってしまえば「今まで一緒にいた旦那を捨てて、昔惚れていた男に鞍替えしようとしている尻軽女」でしかないはずのみよ吉なのだが、彼女の依存性の性分は我々も、菊さんもよく知っている。彼女は決して悪女でもないし、ならず者でもない。本当に、「哀れな女」なのである。

 一昔前の菊さんならば、彼女の要求に対して「正論」で応えていたであろう。「今となっては助六が亭主で、小夏が娘なのだから、自分とは関わっちゃいけない」と、みよ吉をたしなめたことだろう。しかし、助六との関係でも分かる通り、菊さんも師匠との死別や田舎での共同生活を経て、随分変わっている。人としての度量も大きくなったし、助六たちが抱えている問題の大きさを理解し、それを受け入れるための最善の手を取ろうとしている。おそらく、菊さんの中には、引き続きみよ吉に対する愛情といったものは無い。一度は一緒にいた女だが、切れてしまった繋がりを戻そうとは思わないし、彼女の性分を分かった上で、「自分以外の何かを頼りにしてもらわなければいけない」と思っているはず。しかし、現状ではその理屈が彼女に通じないことも分かっている。だからこそ菊さんは全てに対して謝罪し、みよ吉の責める一言一句を受け止めた。かつてとは違い、柔らかく全てを受け止めてしまった菊比古を見て、みよ吉はかえって困惑した。あの頃のように固く正しい正論で自分を罰してくれない菊さんを見て、みよ吉はどうしていいか分からず、ただ目に涙を溜める。そして、菊さんはそれすらも受け入れる。

 パニックに陥ったみよ吉は、そんな菊さんの優しさを見ても、決してそれが自分の望んだ形でないことくらいは理解出来る。依存先を失う恐怖からか、「心中」を持ちかけるみよ吉。その様子は、かつてめったにいかなかった寄席に菊比古を見に行った際の「品川心中」を思い起こさせる。緊張感の走る2人の間に、唯一この問題を解決出来る人間、助六が割ってはいる。これまでずっといい加減に過ごしてきた助六だったが、菊比古が自分のことを思ってくれている気持ちを再確認し、自分がどれほど堕落し、情けない身の上だったかを痛感させられた。自分みたいなどうしようもない人間のことを、真剣に思い続けてくれている人たちの存在に気付いた。だからこそ、菊比古には申し訳ないことと思いつつ、そんな自分を支え、新たな落語を演じさせてくれた「恩人」であるみよ吉に、誠心誠意で頭を下げる。菊比古の望む落語家としての人生、みよ吉の望む落語のない人生。その二つから選べと言われたら、後者を選び、みよ吉についてきてほしいと。

 「芝浜」ならば上手くもいった話だろう。しかし、みよ吉にはそんな急激な環境の変化に対応するだけの度量はなかった。元々自分を失ってしまった女である。「落語が嫌い」という言い分にしたって、彼女は菊比古との関係性でそんな憎まれ口が出てきただけのこと。落語をやるとかやらないとか、そんなことは彼女のとって大きな問題ではなかったのかもしれない。ただ少なくとも、助六にとってはそれが誠意の見せ方だったのだ。一度は落語という夢を見ることが出来た。しかし、残りの人生を夢にしちゃいけない。それが彼の最後の高座の意味。しかし、その決意も、彼を巻き込んだ動乱の流れに抗うことは出来ず。一人の男と、一人の女が、互いに抱きしめ合いながら、その末路をともにした。一部始終を見届けたのは、またも「捨てられて」しまったという、菊さん一人。

 自分を心の底から必要としてくれる男が最後に現れて、みよ吉の人生は、救われたのだろうか。

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